9-94【国境の村にて女神は集う18】



◇国境の村にて女神は集う18◇


 心臓が張り裂けそうだ。

 爆発してしまう。

 鼓動が止まらない。

 熱を帯びた肌を掻き毟るように。


「――がぁ、げほっっ……ぅあ、あぁ……」


『――ご主人様!冷静に、深呼吸を!』


 膝から崩れ、脂汗を流し、地面に倒れる。

 痛い、痛すぎる、まるで武邑たけむらみおが死ぬ瞬間の、あの一瞬の痛みが……永遠の長さで襲ってきたような、そんな痛みだ。


「あははははは!!まさかここまで効力・・があるとはねぇ……」


 地面と接触する顔をイエシアスへ向けると、女神はしゃがみ込んで俺を嘲笑あざけわらう。その顔、やめろ!


「ぐ、ぅ……ふっ……ざけ」

(効力だと?何だ、俺は何をされた……!?)


「あーあ、君も“前世から災難”ねぇ、変なのに付きまとわれて……ふふふ、でもコレで確定だわ、あの女の能力の解明もはっきりとしたし、気分もいい」


 倒れた俺の背を指でなぞる様に這わせ。


「なんの、こと……――な、にを……お前っ……」


 心の奥底から、何かを引き寄せられる感覚。

 無理矢理引っ張り出す、まるで自分の一部を削がれるような。


 これは――マズイ!!


『――いけない!ご主人様、緊急事態ですので能力を……解放します!!時期尚早でリスク無しで使いこなせるかは……不明ですが!!ご容赦を!』


 イエシアスが俺に触れ、指先が光った瞬間……それを邪魔するように、ウィズの言葉通り俺の中で、強制的に何かが弾けた。

 心の中の光が急速で手元までやって来て、睡眠学習のように使い方を叩き込んでいく。


「返して貰うわよ、能力を……――きゃっ」


 バシッ――と、俺はイエシアスの腕を払った。

 直ぐに立ち上がり、驚く表情を浮かべるイエシアスを尻目につぶやく。


「――【哀傷あいしょう】……か」


 心臓の痛みが嘘のように晴れた。

 しかし同時に……なにか、なんだろう……なにか、違和感が残る。


 その答えは、直ぐにウィズが教えてくれた。


『――残念ですがリスクはあったようです。もう数年待てればよかったのですが……能力――【哀傷あいしょう】の代償、それは……ご主人様のを流すという行為が消失した事です。ですが、それだけで済んだと思うことが出来れば……下手をすれば悲の感情が無くなっていましたから』


 そういう事か。

 無くしたのか、能力と引き換えに――涙を流すという事を。


 けれど、悲しさで泣かなくて済むのなら、それでもいいさ……今は。


「ははっ、悲の感情か……つまりもっと最悪なリスクもあったって事だな。ならいいさ……痛みが消えたのは、痛覚自体を消したからか?」


『はい、正確には“傷の痛みのみ”ですが、切り傷や擦り傷、刺し傷や裂傷など……精神ダメージや鈍痛などは対象外です』


 なるほど強力だな、それは。

 リスクが有るのもうなずける。


「まさかこんなタイミングで能力を?……馬鹿げてる、馬鹿げてるわ!」


「へっ、アンタでもそんな驚き方をするんだな!なら泣けなくなっただけってことで割り切るっての!!――【カラドボルグ】!【ミストルティン】!」


 飛び跳ね後退し、俺は武装を。

 女神を殺すことは出来ない……ならば、退けることだけでもしないと。

 俺を待ってる仲間たちがいるんだ、早々に片付ける!!

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