9-93【国境の村にて女神は集う17】



◇国境の村にて女神は集う17◇


 無になる……心まで見透かされてしまいそうな、そんな浸透してくる言葉。

 優しげな語り口と、妖艶な御姿で人間を惑わす……まさしく女神。


 だが……これは――駄目だ!!


「――【無限むげん】!!」

『――【無限インフィニティ】!!』


「なっ……小癪な事をっ!」


 惑わされてしまいそうになった心を無理矢理引き戻す。

 一瞬で【無限むげん】を発動し、足元の地面をタワーのようにして離脱。

 同時にウィズはイエシアスを囲む。


「よっとっ!!」


 土タワーからバク転で降り、石の棺に閉じ込められたイエシアスを観察。


「……なにが目的だ!!」


 俺の能力だよ。分かってて言ってるからな。


「……」


「あれ……ウィズさん?まさか」


『――中は空洞です。そもそも女神に転生者の能力は効かないと……』


「だぁー!分かってる、自分をなごます冗談だろ!」


 女神に転生者の能力は作用しない。

 それは転生者の中では常識だ、もちろん知ってるさ。

 【無限むげん】で変質させた物理ダメージでも、それは同じという事。


 ビキ、ビキキ……ビキャッ!!


『ほらね』


「だから……おっ、こりゃまた」


 ヒビの入る土の棺。

 強度はかなり強力なんだけどな……触れただけで壊してそうだ。


 ガラガラ――ボロボロ……と、文字通り土に戻って崩れた。


「――随分と小賢しい真似をするようになったわねぇ、流石はアイズレーンの子……」


 イライラしてるなこれ。

 でもこれで少しは余裕が出来る、上に来て数分……あっちはどうなってる。

 ウィズ、せめてアイズに連絡は出来ないのか?


『――善処しますが、期待はせぬ様に』


「……まぁそれでいい、頼むわ。どうやら俺はここを生き延びないとならんらしいからな」


 まさかイエシアスが突然現れるだなんて、誰が想像したよ。

 しかも完全に俺を狙って、俺の持つ数々のチート能力を回収しにやって来た。

 今村に起きている、ミーティアからのSOSも、タイミング的にこの女神が引き起こした可能性が高い……というかほぼコイツだろ。


 なら乗り切らねぇと……村の事はクラウ姉さんやミーティア、セリスに任せるしかない。俺はこの女神だ、どうにかしねぇと。


「ふーん、やけに余裕ねぇ。そんな感じでレフィルの事も退けたのかしら?リディオルフも?」


「はぁ!?……あ、あの二人はあんたの転生者かよっ!」


 一歩ずつ歩み寄り、イエシアスは黒い服にかかった土埃を払いながら答える。


「男は違うわぁ。レフィルはそうだけど……どちらも約にも立たなかったわねぇ――いえ、あーでも、男は君の秘密を暴くきっかけになってくれたから……褒めてあげてもいいのかしらぁ?」


 口を歪めて笑う。

 それが神のやることかよ畜生ちくしょう


『ご主人様、【女神イエシアス】は……』


 ああ、もう分かってるさ、俺が瀕死にしたリディオルフ・シュカオーンにトドメを刺したのは……この女神だ。


「あの男に能力を使ったんだな、転生者の能力を回収して」


「ふっ……ええそうよ。既に十数個、王国の女王に協力させて……ねぇ?」


 何故ここでシャーロット王女、いや女王の名が??

 まさか、あの女の子も転生者?


 脳内を過ったのは、あの薄紫色の髪の少女。

 クリムゾンレッドの瞳は、未だに覚えているさ。


 ドクン――


「――ぐっ!!……がっ、はっ!」


『――ご主人様!これは……急激な心臓への負荷??どうして急に、それにこの痛覚情報は……』


 いてぇ……まただ、またこの痛み。

 だけど、今までと違うことがある……この痛み、この痛みは……シャーロット女王と初めて会ったときにも感じた痛み、そして前世で死んだときに負った……刺された痛みだ。

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