9-92【国境の村にて女神は集う16】



◇国境の村にて女神は集う16◇


 村の中央では戦闘が繰り広げられている。

 【支配しはい】に抗うイリアと、使用者のユキナリ。

 それを止めようとするセリスフィアとライネ、クラウ。


 見守り、援護をするように【固有領域ユニーク・レギオン】を展開するミーティアと、必死に能力――【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】を発動しようとするアイシア。

 その二人を見守り、外に被害が出ないように魔法結界を張るジルリーネ。


 地下の教会では女神が二柱、それぞれ思いを馳せている。

 そして最後に……ミオ・スクルーズだが。





「座標は任せる、一度上に【転移てんい】する!」


『――了解しました』


 ミーティアからのSOSを受け、俺は地下の探索を中断する。

 距離がある以上、奪った【転移てんい】ではレベルが低くて距離を移動出来ない、だから一旦真上に移動してから、再度【転移てんい】で村中央へ行く手筈だ。


 シュン――


「……よし、もう一度――……!!」


『――まさか!!』


 洞窟の上はアボカド畑。

 燃えてしまった木々たちが視界に入り、再度【転移てんい】をしようとした俺の目の前……瞬きの一瞬、刹那の時間。

 俺もウィズも、同じ反応をしたんだ……


 何故ならば、そんな俺の目の前に――女神の姿が映し出されたからだ。


「……なっ!!――イ、イエシアス!?!?」

(気配も魔力の反応もなかったぞ!!どういう事だっ!?)


『――不明です!一秒前までは反応ありませんでした!!』


「うふふ……久しぶりねぇ、ミオ」


 不敵な笑み、鈍色にびいろの髪を風になびかせて……俺を狙う【蠱惑の女神】、イエシアスが出現した。


「くっ――急すぎなんだよ!!」


 意味不明、急転直下、どんな言葉が正しい。

 仲間に呼ばれてても、こいつを放置して向かうのは危なすぎる。


「あら、嫌われたものねぇ……それとも、会いたくなかったかしら」


「……急にどうしたんだよ、もう何年も俺に会いに来てないだろ。いや、それより目的の転生者は見つかったのか?」


 もうバレてる可能性もある。

 だから俺に会いに来たのか……しかも村が大変なタイミングで。


「ふふふ……ええ、それはもう近くにいたわ。あの馬鹿女神の影響下じゃなければ、とっくにねぇ」


 距離を開けるが、離れた気がしない。

 まるで目の前で心臓を掴まれてるかのような気分だ。


「それってつまり、もうアンタは行動をするってことでいいのかな……」

(ウィズ、ティアに連絡を入れといてくれ。少し遅れるって)


『――不可能です』


「……さぁ、どうかしらね」


 くっ……同時に喋んなよイエシアス。

 しかし、ウィズが無理だというのなら可能性は……この妖艶な女神さまなんだろうな、ことごとくタイミングの悪い――いや、狙ったのか!?


「なぁイエシアス、アンタ……村になにかしただろ?」


「気がついたのねぇ?どんな能力を使ったのかしら……索敵系?それとも同調系?」


「へっ……何せ数えられないほどあるんでね。で、手品の種明かしはしてくれねぇの?」


 心の中は冷汗だらけで脱水状態だっつの。

 失敗は出来ない、油断も出来ない。

 何故かウィズの連絡手段も使えない……それは確実にこの女神が何かをしたからだ。

 しかも質の悪い事に、村で起きた何らかの事態も……どうやらこの女が発端らしい。


「してほしかったら……君の持っている能力、返してくれないかしら」


「――っ!!」


 ゾクリ――背筋の凍るような視線が、俺の心を、身体を、まるで石のように硬直させた。

 時が止まったかのような一瞬は……まさしく女神の、神の力なんだ。

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