9-91【国境の村にて女神は集う15】

※【国境の村にて女神は集う】パート、ここで約半分です。長いパート兼9章最終パートですので、どうぞよろしくお願いいたします。

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◇国境の村にて女神は集う15◇


 衝撃は村の中央から広がり、逃げた村人たちから伝染してその有様が鮮明になる。

 村長の息子の友人と、西からのお客が揉めている。

 戦闘となって、激音を響かせていると。


 村の北西部にある地下教会では、無言の女神二柱と、従者一人が。

 この場で唯一の人間であり、エリアルレーネの転生者である男はこう叫ぶ。


「……い、いいんですかエリアルレーネさまっ!セリスフィア殿下も、きっとライネも戦ってますよ!このままだと、あのボケナスのせいで今後の関係性もパーです!!今すぐに、僕に行かせて下さい!!」


「――いいのですよゼクス。あなたは黙って私の護衛をしていればいいのですから」


 皇女一行の一人、ゼクス・ファルゼラシィ。

 光使いの彼は能力を使って一度だけ外の光景を見た……それはクラウとライネが到着する少し前の、ユキナリの暴走の直後。

 セリスフィアから来た風の情報を持ってしても、エリアルレーネは動こうとしなかった。それが運命ならばと、さも運命の女神だと言わんばかりの対応だ。


 しかしながら、エリアルレーネ信者のゼクスでも、仲間である皇女やライネ、ライバルでもあるユキナリの行動を止めるな――と言われれば不満もでる。


「し、しかし……」


「諦めんのね、ゼクス・ファルゼラシィ……エリアはこういう女なの、“どうでもいい百”と“大切な一”どっちを取るかと言われても、躊躇ためらわずに百を選ぶのよ」


 ベッドに座りながら、頭の上で両手を組むアイズレーンにそう言われる。


「そ、それってつまり、ユキナリを切り捨てるって事ですか……!?」


 百は、今後の村との交友という【サディオーラス帝国】の未来。

 一は、自分が選別した転生者、ユキナリ個人という現代。


「――そうですよ。そしておそらくセリスも、同じ考えでしょうね」


「……!で、殿下はユキナリを好きなんですよっ!?それなのに、そんな事!!いくら帝国皇女でも、殿下は!」


「いいから黙りなさい。それにそれは皆同じです、私も同じく、あの子が好きですから」


「……くっ」

(ちくしょう、エリアルレーネ様の言うことも分かるけど。だけどせめて、僕に行かせてくれても。くそ――ロイドがいてくれれば……)


 初めてエリアルレーネを冷酷だと思った。しかし情では表せない、何か特別な感情を込めた言葉に……ゼクスは何も言えなくなる。


(――出来れば、私だってあの子たちのもとに駆けてあげたい……だけどそれでは女神ではいられなくなる。神は子に対し平等、いくら手塩をかけた転生者といえども……)


「――ふーん。数千年女神のままだとこうなんのね」


「なんの事です?……アイズ」


 棘のある、含みを持つ言葉だった。

 妹神であるアイズレーンは、エリアルレーネを見てにやりと笑う。


「あたしなら転生者を送るわよ、そしてどっちも助けるわね」


「それは叶いません、貴女も理解しているのではないですか?二者択一に、もう一つの選択肢など許されないのですから」


「あーあ、変わったわねぇ……エリア。まぁしょうがないけど……なら黙って静観してればいいわよ。でもね、後になって驚くことになるのはアンタよ?」


「……」


 エリアルレーネは瞳を閉じた。

 これ以上は聞くつもりもないと……別れを受け入れると、大切な転生者わがこを切り捨てると。

 そしてその様子を見て、アイズレーンは更に笑う。

 笑みを噛み殺すように、心の中でクスクスと。


(いんのよ一人だけ、全部を切り捨てずに拾ってきた、物持ちのいいバカがね……選択肢は無限・・なのよエリア、枝分かれして、何通りもの未来から最適を選ぶ。そうやって十五年生きてきた――転生者が)


 その答えを、アイズレーンは信じていた。

 捨てる覚悟をする女神の考えをもくつがえす――ミオという男を。

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