9-90【国境の村にて女神は集う14】



◇国境の村にて女神は集う14◇


 雷光が空に走った。

 それは白雲を裂き雷雲を呼び、この場一帯に雨を降らせた。

 ピンポイント過ぎる局地的大雨、フドウくんがやったのね。


「――まずいわ、四の五の言ってられない……【クラウソラス】!【天使の翼エンジェル・ウイング】!……私行って来る!」


 静かに降る雨と轟く雷鳴に、誰もが息を呑んだだろう。

 しかしハッとしている訳にもいかない。私は帝都組あちらの意向も理解しているけど……そうも言っていられなくなったのは向こうも分かっているはず。

 だから【クラウソラス】を持ち、フドウくんへ向けて飛び立つことにした。


 短いけど、静観はおしまい。


「ね、ねぇクラウっ!?私は……どうすればっ!?」


「おっと、ミーティアはそのまま氷の魔力を展開してて!……あと隣のアイシアが凍えそうだから!」


「――え……わぁ!ア、アイシアぁぁぁ!?」


「気をつけるんだぞ、クラウ!」


 横を見て焦るミーティアと、魔法結界を張りながら私に声を掛けるジル。

 私はうなずき、空を飛翔した。


 ミオへはミーティアが連絡を取ってくれたが、まだ返事はない。

 それでもこちらへ向かってくるはず……そう信じて待つしかない。

 ってか【転移てんい】で早く来なさいよ。


「――セリスフィア皇女っ!ライネっ!……どうです、助っ人要りますか?」


「……ク、クラウ!その必要は――」


「助かるわ、悪いわね……迷惑かけて」


「で、殿下!?」


 着地した私の背に向かって、苦笑いのままそう言う皇女。

 ライネは断るつもりだったわね……状況は皇女のほうがよく見えてる。


「フドウくん、もうやめてくれないかしら。これ以上は関係の悪化じゃ済まないわよ……何があったかは分からないけれど、イリアにも――おっと!」


「ぐオぁ!!」


 話も通じないってね。

 これはアレだわ……強硬手段にでるしかない。


「なら少し痛いわよ!――【貫線光レイ】!【貫線光レイ】!【貫線光レェェェイ】!!」


 本気の魔力を込めて、私は光線を撃つ。

 しかし本来貫通するはずの魔力の線は。


 バシュゥゥン――


「なっ!?掻き消されたの!?くぅ〜あのバカデカイ腕っ!!」


 ちらりと皇女の方に目をやる。

 セリスフィア皇女はイリアに対応していた……怪我をさせないようにしてくれるのは助かるけど、本当に何があったのよ。


「クラウっ!あの腕は【グリフォンネイル】と言って、魔力を腕に変換してダメージを与える……」


「――それは分かってるっての!ライネ、あんた一番混乱してんじゃない!!」


 フドウくんはライネの直属の先輩。

 その先輩が訳の分からない行動をすれば……混乱もするかもだけど、落ち着きなさい。


「ででで、でもっ!」


 いやいや、目が泳いでるわよ!


「ライネ!クラウさん!――二人共、本気で斬る・・つもりでいい……ユキナリを止めるわっ!!」


「殿下ぁ……くっ――はいっ!」


 イリアの攻撃を受け流しながら、皇女はこちらを見ないまま叫んだ。

 その言葉に、重く返事をするライネ。

 斬る……殺すつもりで。


 私は頭をガリガリと。

 ポニテの付け根が痛い!!


「あぁもう……つくづく面倒な男ね!フドウくんっ!!【孔雀貫線光ピーコック・レイ】!!」


 拡散の【貫線光レイ】――【孔雀貫線光ピーコック・レイ】を放つ。

 規則性のない光線は無差別にフドウくんを穿うがちに飛ぶが、それは巨大な腕に阻まれる。


「貫通もしないなんて、結構殺すつもりで撃ったのに……」


 私たちの視点から見れば、まるで巨大な平手だ。

 光線が当たった箇所からは煙が出ているが、それだけ。


「ユキナリ!【烈火れっか】ぁぁぁぁ!」


 【アロンダイト】から炎を噴出させるライネ。

 まるで怒りをそのまま噴き出したかのように、勢いよく上段斬りを振り下ろす……が。


「――ウザイ」


 バチンッ――!!


「……せ、ん輩っ!――ああぁっ!」


「ライネっ!」


 巨大な腕の巨大な指二本で、炎の剣を挟み取る。

 白刃取りで防いだフドウくんは、そのままライネを投げ飛ばす。

 その方角はセリスフィア皇女の方角、丁度イリアの投擲とうてき攻撃を防ごうとした場面――このままではどちらも直撃コースだ。


 だが、避ければライネに飛翔する剣が当たる。

 避けなくても、ライネとセリスフィア皇女が背後からぶつかる……どうすれば!!


「皇女っ!!ライネっ――」


「――ちっ!」


 皇女も気付いた……避けられない事も。


 私の光線は守りには使えない。

 なら――間に合うのは。


 その考えを予期したかのように。

 私の顔面すれすれをすり抜ける……一本の軌跡。

 空を裂くその凍気で髪が凍りつき、一瞬だけ身体が冷える。


 キィ――ン!


 甲高い金切り音は、地面に二つ落ちた。

 一つは地面に突き刺さったイリアの剣、もう一つは後方から正確に狙撃してくれた、ミーティアがった氷の矢だった。


「ナイス!!」


「ライネ!そのまま来なさいっ!――ぐぅっ……う、ぅぅ……っ!」

「すみま――せふぐっ……!あっぇあ!……ぁっいぁんにゅっ!」


 私は掛け声とともに駆け出し、フドウくんが追撃をしないように視線を塞ぐ。

 セリスフィア皇女は吹き飛ばされたライネを受け止めた。

 しかし流石にこの勢いは殺せず、二人で転がっていたが。


「皇女様っ!イリアを頼むわっ!」


 転がりながら「任された!」と。

 私はミーティアにも視線を送ると、うなずきを返される。

 距離も取った……これでどちらにも集中ということは避けられる。


「フドウくん……バカね、君は」


 魔物の腕を痙攣させながらも、フドウくんの視線は私を捉えていた。

 訳も分からないまま戦闘をして、関係性が崩れる危惧もある展開……ミオならどうする。

 私に出来ることは、これ以上の遺恨を残さないこと……ならば。


 戦って分からせるしかない。

 この子供のような、馬鹿な男の子を……

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