9-89【国境の村にて女神は集う13】



◇国境の村にて女神は集う13◇


 戦闘は続いている。

 冷静を保てていない二人を相手するのは、流石に疲れるわ――と、呑気にもそんな事を考えていた私の【感知かんち】に、強力な反応。


「――まさか、【固有領域ユニーク・レギオン】!?」


 それはこの世界の、強力な力を持つ人物たちが使う専用のフィールド

 【オリジン・オーブ】を所持している以上、その可能性は考えたけど……彼女は確か、まだ【オリジン・オーブ】を所持して浅いはず。

 この短期間で、これほどの氷の結界を……??


「……世界は広いわね……まったく」


 これでこの場は彼女が制してくれる。

 それならこっちは戦いやすくなるし、これ以上の被害が出ることもなくなる……野次馬さんは近付けないでしょうしね。


 それにライネが来てくれた……向こうにはクラウさんもいるけど、多分ライネが「私たちの問題なので解決は任せて……」とでも言ってくれているのだろう。

 だから私が言うまでもなく――私は二人を止めることだけを考えよう。


「――ライネ!ユキナリの足を止めるわ!牽制をしなさいっ!」


「りょ、了解しました!――【烈火れっか】!」


 一時的でもライネにユキナリの相手をさせ、私は風を起こしてユキナリに向かって飛んでくる短剣二本を止める。

 フラフラとする短剣は、先程より弱っていると見えた……時間にして十数分、イリアさんの戦闘可能時間は、そろそろと言った感じなのかしらね。


 そして一方のライネは、ユキナリに肉薄しながら罵声を浴びせていた……日頃の恨みかしら。


「――こんのぉボケナス!いやヴォォォケナスッ!!殿下に迷惑かけて!村に迷惑かけて!ミオくんにも迷惑でしょーが!!」


「……ラ、イネ……うる、せぇよ!」


「?」


 なに?ユキナリの様子がおかしい。

 苦しそうに顔を歪めているし、どこが魔力の流れが不自然だわ……さっきまでは普通だったのに、どうして。


「ユキナリ!もうやめなさいっ!今なら謝罪で済ませてあげる、イリアさんにも誠心誠意謝りなさい!頭を地面に突き刺して!」


 何が起きたのかは、正確にはまだ分からない。

 だけど数年前にユキナリが起こした件に、イリアさんが関わっているのだとは理解出来る……だから地面でおでこを擦り減らさせてでも、ユキナリに頭を下げさせなければ。


「――姫さん……俺の意志は、さっきの言葉通りだ……でもよ、俺はこんな事……するつもりなんて、なかったんだっ!」


「今更何を言ってんのよ!殿下に恥かかせてっ!!」


「……ユキナリ?」


 ライネの炎をまとう剣を受けながら、ユキナリは何かに抗っているように歯噛みをしていた。

 私に言葉を向けるその内容に、違和感を持てるくらいには。


「自分じゃ、どうにもならねぇんだっ!!」


「ぐっ!――きゃっ!」


 力任せに、ライネを吹き飛ばす。

 息が荒い……こんな短い戦闘時間で?あのユキナリが?

 そういえば、魔物の能力も初めの二つしか使っていない……?


 ユキナリはそのまま私に突進。


「ユ、ユキナリっ!力を制御なさい!魔力を抑えるのよっ――ちっ!」


 ズドン――!


 大振りで分かりやすい一撃を、私はサイドステップで避ける。

 地面をえぐり、飛石を撒き散らせ……魔力で出来たはずの魔物の腕が、まるで本物のように可視化し、筋肉となる。


「ぐぅっ……おぉぉぉ!!」


「な、なによその力!いつもと違うじゃないのっ!どうしちゃったのよボケナスユキナリ!」


「これは……!暴走!?」


 ライネが驚くように、私も同じく驚いていた。

 精神干渉、物理ダメージ、確かにユキナリの【グリフォンネイル】には両方の用途があるが……ここまで目に見える、具現化した状態は今までになかった。


「――ぐぉぉぉぉォォォォオオオオオっッ!!」


 ぐるんと、ユキナリの黒い瞳が回転した。

 蚯蚓腫みみずばれのような血管を浮かせ、私とライネを威嚇いかくするその様は――完全なる魔物だった。

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