9-88【国境の村にて女神は集う12】



◇国境の村にて女神は集う12◇


 私とジルが駆けつけると、そこでは戦闘が繰り広げられていた。

 黒髪の少年、ユキナリ・フドウと私たちの仲間であるキルネイリア・ヴィタールとの間に立ち、二人を相手取って牽制する、セリスフィア皇女。


「どういう状況なの!?」


「ミ、ミーティア!」


 慌てたように、村人の避難を終えたアイシアが私とジルのもとへ。

 それとほぼ同時に、空中から。


「――ミーティア!アイシア!」


 大型の鳥かとも思わせるシルエット。

 風を起こす翼は光り輝き、着地する足は細い、小さな身体。


「クラウ!」

「クラウさん!!」


 クラウが着地すると、繰り広げられている戦いの場に……怒声。


「――こんのボケナスゥゥゥゥゥゥ!!」


 上空から落ちてくるように、聖剣を振りかぶったライネさんがフドウさんに斬りかかったのだ。


「ま、まさか……」


 私はクラウを見る。

 クラウとライネさんは今日同じ場所にいたはずだから。


「――空から投げたわ。投げてって言うから」


 そんな扱いでいいのだろうか。

 いいえ、そんな事を考えている場合ではない……


「一体どういうことなのアイシア。何か……知らない?それに、ミオは?」


 この状況でミオが出てこないのはどういう事?

 今の村の情勢で、厄介事を一番に対処したいのはミオのはずなのに。


「分からないの、み、未来もえないし……こんな時に!」


 アイシアはアイシアでなんとかしようとしたのね、でもこういう時は。

 私は右足に集中し――ようとしたが。


「――手出しは無用です!部下の不始末は、私たちがっ!」


「セリスフィアさんっ……でも!」


 背を向けたまま、私の【オリジン・オーブ】の魔力を感じたセリスフィアさんが叫ぶ。

 だけどこれで確実。この騒動を起こしたのはユキナリ・フドウさん。


「ライネ!」


「はい!殿下っ……このヴォケナスユキナリぃぃ!!」


 ライネさんは名前を呼ばれただけで、その意図を汲んで行動を移す。

 手に持つ【アロンダイト】……だったかしら。

 その剣が赤く光り輝き、まるで熱を放射するように。


「――魔法剣【ブレイズ・チャージ】!」


 炎の魔力を帯びた聖剣が、影を落とすフドウさんを照らす。

 そして一方で、イリアは。


「ああああっ!」


 光のない瞳で、フドウさんに向かって短剣を投擲とうてきする。

 しかし、セリスフィアさんが風を発生させてその挙動を不安定に。

 短剣を必死に【念動ねんどう】で操作するが、その場所だけの突風は非常に強力だった。

 身動きすることすらままならない状況に、魔力がもともと少ないイリアは呼吸を荒くし始める。


「イリアっ!どうしちゃったの!?こっちに来てっ!!」


「これは……魔力干渉ですお嬢様、それもかなり強力な」


「それって、イリアが誰かに操られているって事?」


「……まさか、あの人が?」


 視線は一様に、黒髪の少年へ。

 しかしジルは……少し自信のなさそうな垂れた耳で。


「――いえ、どちらかといえば……あの男こそ、干渉されているような気配が」


「「え?」」

「はぁ?」


 私、アイシア、そしてクラウが。

 セリスフィアさんは部下の不始末……つまりはユキナリ・フドウさんが発端だと感じているようだけど、ジルが言うには、あの人こそが魔力の干渉を受け――操られていると、そう言っている。


「「「……」」」


「お嬢様……考えていないで、今は優先してミオに連絡を。お嬢様になら可能でしょう?」


「あ――ウィズ!!」


 訳が分からない事だらけだけど、ジルの言うとおりだ。

 私は魔力を発生させて、【オリジン・オーブ】に集中する。

 霜が発生し、周囲の空気が冷え、私の右足は氷におおわれる。


「……あれが、青の【オリジン・オーブ】っ」


 横目でちらりと私を見たセリスフィアさんがそう口にする。

 なんだか少しだけホッとした……アイシアが暴走した時、私は何も出来なかったから、同じ【オリジン・オーブ】の所持者でも、相手にされていないんだと、思っていたから。


「――お嬢様の、ユ、【固有領域ユニーク・レギオン】……」


 ジルが横で驚いている。

 これがそう呼ばれるものなのね……私の、氷の世界を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る