9-86【国境の村にて女神は集う10】



◇国境の村にて女神は集う10◇


 地上は一体どうなっているんだろう……と、少しでもそんな考えを巡らせられる余裕があれば、俺はもっとまともな人生を歩んでいただろうと、思うこともあったさ。

 だけどまさか、あんな事になっているだなんてこの時の俺は知ることもなく、目の前のえさに釣られる動物のように、地下の空間を探索していたんだ。


 いいさ笑えよ。俺はこんなんばっかだ。

 近くにいるのに何も知らない、そんなこの時の俺の様子を、どうか笑ってやってくれ……





「うおぉぉぉぉ!……なんじゃこりゃぁぁぁ!!」


 驚きの声は空間に広がる。

 五分ほど歩き、ウィズの言う通り広めの空間に出た俺は、文字通り大声で叫んだ。

 その神秘的な光景は、THE異世界。


「……明るいし、めちゃくちゃ空気が澄んでる。どんな原理だよコレ」


『――魔力鉱石の反応があります。光を発する結晶が自然の魔力で密集し、大きな結晶となったことで、この空間全体に光を照らしているのでしょう』


 広さはサッカー場にも相当するほどの規模でありながら、端っこまで完全に明かりが届いている。

 天井……そこには大きめの鉱石があり、きっとそれが魔力鉱石とか言うものだろう。


「正確には石じゃないんだろうな……魔力の結晶、そこから漏れ出して光になってる感じか」


『はい。この魔力は土地の……【豊穣ほうじょう】の加護でしょう。ですのでこの洞窟に室温は、ご主人さまの考える通り……一部の野菜の栽培に適しています』


「お、おお……思わぬところから、嬉しい収穫だ」


 この土壌を持ち帰る、もしくはこの場所ででなら、また被害の前の村に戻せるかも知れない。それは俺にとっても村にとっても、何ものにも変えられないレベルの得難いものだ。


 俺はしゃがみ込み土を触る。


「……粘土ねんどに近いな。熱さも程々、火傷まではしない感じで触り心地がいい――確か、粘土質の土壌では、豆とか芋とかが育つんだよな、米もそうだっけ」


 お米なんてこの世界にないけど。

 でもよく分からん芋とか豆とかは存在してるし、あれだな、似たものからの品種改良をすれば、もしかしたら地球産に限りなく近いものが作れるかも。


『――粘土質の野菜は、蓮根などが育ちやすいと。地上の土の品質とは明らかに違いますので、改良の必要性はありますが――っ!!』


 レンコンなんて絶対ないだろ……って、どうした?


「ウィズどうした、急に」


『――緊急のご報告を』


 え……なに級に。


「どうした?何かあったか?」


『ミーティアからです。今すぐに村の中央部に来てくれと……』


「洗濯場の場所か、何があった」


 ミーティアがウィズを介して俺に連絡をするのは珍しい。


『――ユキナリ・フドウとキルネイリア・ヴィタールが戦闘状態に。それを仲裁しようと、セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスが臨戦態勢に』


「はっ……はあ!?なんで急にそんな事になってんだよ!!ユ、ユキナリがイリアと戦闘!?セリスが仲裁って……ユキナリの奴、皇女に何させてんだ!ってそれどころじゃない!」


 俺は【転移てんい】で移動しようとしたが……


『距離とレベルが合いません、一度真上に【転移てんい】し、再度【転移てんい】で中央部へと向かいましょう』


 面倒くせぇ!!リディオルフの奴、もっとレベル上げしとけ!!


「ウィズ、【転移てんい】の座標は任せるぞ!」


『――お任せを』


 そうして俺は【転移てんい】を発動し、ようやく村で何が起きていたかを知るのだった。

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