9-85【国境の村にて女神は集う9】



◇国境の村にて女神は集う9◇


 今回の騒動で、もっともセリスフィアが連絡を取りたがっていた相手……それは当然ながら村の中心人物であり、信頼できる実力と考えを持った少年、ミオ・スクルーズだ。

 空を舞う魔力を帯びた風は……そのミオ・スクルーズを探して水面を彷徨さまよっていた。

 当たり前だが言葉を発せない風の気持ちを代弁すると、こうだ。


『――気配が消えてるーーーーーー!!』


 水面……即ち、川の上にて途切れているミオの気配。

 風はむなしく右往左往、主の思いを聞かせることが出来ずに、水面を悲しげに、ふわりと浮くことしか出来なかった。


 そして、そのミオ・スクルーズはと言うと。





「――ぶはぁ!……し、死ぬかと思った……」


 水面を激しく揺らし、俺はようやく息が出来たことに安堵する。

 素潜りしてて、まさか洞窟に吸い込まれるとは思わなかったな……


「驚いて取った網を離しちまったし……最悪だ。しかも暗い、洞窟……だよな」


 折角、食料確保が出来たと思って喜んでいたのに。

 これだとまた買いに行かねばならないぞ。


 しかも川に入るということで、服脱いでたし。

 真っ暗で視界もクソもない状況に、俺は左手だけに【極光きょっこう】をまとわせて明かり代わりにする。


『――ご主人様、ここは地下教会と同じ深さがあるようです』


「マジか、結構深いな……まぁ【転移てんい】で帰れるけど。それにしても……こんな洞窟が川の中にあるなんてなぁ。あと、空気があるってことはどっかに繋がってんのか?」


『――崩落の痕跡こんせきもあります。自然に発生したものでしょうが、あからさまな【魔力溜まりゾーン】の反応もありますのでご注意を』


 確かにボロボロというか、人の手が入った形跡はないな。

 魔物の反応は、今の所なし。

 けど……なんだか不自然というか、洞窟内が温かい気がする。


「まるで湿地帯っつーか、温室みたいだ」


『――ご主人様、南方に広めの空間があります。この位置は……村の東に位置する場所です。五分もあれば到着出来ますが』


「あー、アボカド畑の場所か!めちゃくちゃ流されてるなぁ……おい」


 この川は【豊穣の村アイズレーン】の北口から少しだけ行った先にある小さな川だ。

 まさかここまで深いとは思わなくて、魚も昔はほとんど取れなかったんだが……試しに潜ってみたら大量発生中だった。

 そして空洞からの吸引に巻き込まれて、このザマだ。


 俺には水を操る能力はないし、【無限むげん】は属性への干渉ができないから下手をすればマジで詰んでた。

 俺は安堵のため息をつきながらも、行動を始める。


「ふぅ……五分か、それなら行ってみるか」


 もしかしたら思わぬ副産物かも知れないし、これはチャンスに取れる。

 この温かい場所を村と繋げることも考えられれば、野菜の栽培も上手くいくだろうからな。


 頬を右手でパチンと叩き。


「――しゃあ!やる気出たっ!行くぞウィズっ!」


 俺は【無限むげん】で、ポケットに入っていたハンカチを衣服に変質させる。

 地上で何が起きているのかを知るよしもなく……俺は地下での探検を開始するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る