9-84【国境の村にて女神は集う8】



◇国境の村にて女神は集う8◇


 戦闘音が聞こえる。

 轟く雷鳴と、疾風の走る風切り音。


「――これは……まさか戦闘!?」


「どうして……!!これは、殿下の風?」


 隣りにいたライネの耳元に、優しい風が吹いた。


『ライネ、クラウさん。まずいことになったわ、今すぐに戻ってきて、場所はおそらく村の中央部!ユキナリが暴走したの、イリアさんと戦闘になってる!』


「「はぁ!?」」


 突飛すぎる一方的な言葉に、バカみたいに声を出す私とライネ。


「どういう事?戦闘って……どうしてイリアがっ」


「わ、分かりません。殿下の風は一方通行ですから……現場に行くしか」


 なら急ぐしか道はないってことね。


「分かった。【天使の翼エンジェル・ウイング】!――掴まって、ライネ!」


「え!!いや、私高所恐怖症……あー!いや。は、はい!!」


 一瞬だけ戸惑うも、ライネは私の手を取る。


 空を飛び、私とライネは村に戻る。

 何が理由かは知らないけれど、噂をすればなんとやら……フドウくんが馬鹿をした。それだけは確実なのだから。





 地下教会・アイズの部屋。


「なんか来たわよ、エリア」


「――らしいですね」


 扉の隙間から入ってくる、魔力を帯びた風は優しく女神に言葉を聞かせる。

 その声は皇女セリスフィア。冷静を装ってはいるが、どこか不安そうな、助言を求める子羊のような印象だとアイズは思った。


『失礼をお詫びします、アイズレーン様……しかしエリアルレーネ様に、至急お伝えしなければなりません――ユキナリが、【支配しはい】を使い……ミオの友人であるイリアさんと戦闘に入ってしまいました……つきましては、ご助言を頂きたく存じます。場所は村の中央部……どうにか抑えてみせますが、万が一の場合は……お許しを』


「……来てしまいましたか、その時が」


「……どうすんの?万が一ってのは、あんたのお気にを処すってことでしょ?」


 【神命与奪しんめいよだつの義】を行っていた手を止め、エリアルレーネはまるで他人事のように。


「そこで終わるのならそれがあの子の運命です。何度も忠告はしていますし、叱りつけても来ましたよ」


 アイズは思った。

 この女神は自分の姉だ、しかし似てはいない。

 運命の女神――それが定めだというのならば、それに従う。

 出会いも別れも、決められた運命ならば。

 そこに理知的な考えは発生せず、本能のように動くシステムがあるだけ。


「意外と冷淡って言うか、厳しいのね」


 つまり、エリアルレーネは助けるつもりがないという事だ。


「うふふ、貴女あなたもそうするでしょう?」


「……まぁね」

(昔ならね……)


 立場が逆で、例えミオが暴走していても動くことはない。

 神は不変であるが故に、他が変わることを望む。

 それは立場も、環境も、身姿も、性格や才能も。

 何かが変わることで事が面白おかしくなるのならば――女神は動かない。


 それが本来、神に与えられた特権である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る