9-83【国境の村にて女神は集う7】



◇国境の村にて女神は集う7◇


 どうして私はこの人に敵意を向けているのだろう。

 父の仇、母の仇……違うのに。

 この人はクレザース家に頼まれて魔物を用意した、ただそれだけ。

 この人に恨みをぶつける理由なんて、もうないはずなのに。


「ああああああああああああっ!」


 憎い。憎い。憎い。

 思考が出来ない、頭が割れそう、この人しか見えない。

 壊してしまいたい、殺してしまいたい。


 そんな黒い思いが、私の中で暴れる。


「そんな太刀筋じゃあ俺は殺せないぜっ!キルネイリア・ヴィタール!」


 ミオにもらった剣で、人を傷つけたくなんかないのに。

 私は加減も忘れて短剣を振るう……しかし当たらない、当たっても防がれる。


「うぅっ!ああっ!!」


「そうだ!獣になれ!俺を殺してみせろよっ……俺を転生させてくれぇ!!」


 そんな事情知らない。私にはもう関係ない。

 あなたが両親の仇に関わる人物であろうとも……私は【アルキレシィ】を倒せた、皆の強力で乗り越えられた。

 それを……なかったかのようにしないで。


「――ユキナリィィ!!」


 私と彼の間に入り込む影は私の剣を捌く。

 彼の魔物の腕を防ぐ。


「邪魔すんなよ姫さん!!」 


「う……うっ」


「――いい加減にしなさい!いつまで子供のようなことをほざくつもりなの!我儘も大概にしないと――!!」


 持っていた槍?の柄で、セリスフィアさんは彼を吹き飛ばす。

 私を守るように立ってくれるが……私はその背に、剣を向けていた。


「――!!っと!……イリアさん、落ち着いて!ってのは無理よね、【支配しはい】されてるんだもの!!」


 私はセリスフィアさんを無視するように剣を投擲する。

 セリスフィアさんは避けるが、しかし短剣は【念動ねんどう】によって浮遊し、彼を目指す。


「当たんねぇって!おらっ!!――お?」


 彼の攻撃も、短剣には当たらない。

 私が操作して避けたから。


「念動力、また珍しい能力をっ!」


 私と彼を相手取り、セリスフィアさんは交互に私たちを引き離す。

 【念動ねんどう】で二本の剣を浮遊させ、両者に攻撃する私の魔力は、不思議と減少していないように感じた。


「――ぐぁっ……へぇ、やるじゃん!!」


 浮遊する短剣で、彼の背を斬った。

 セリスフィアさんを相手にして隙だらけの背中に。


「ユキナリ、意固地になるのはやめなさい!またエリアルレーネ様にご迷惑をかけるつもりなの!?反省したっていうのは嘘なの!?」


 魔物の腕を、セリスフィアさんは得物えもので防ぐ。

 風が舞い、その風は優しくセリスフィアさんの周囲を渦巻く。

 まるで守っているように、そして加護を与えるように。


「しるかぁ!!」


「……どうして急に!いっつもいっつも自分勝手に!」


 堪忍袋の緒が切れるというのはこういうことなのだろうか。

 今までは我儘も見逃してきた。実力があるから、実績があるから。

 でも、セリスフィアさんの思いも女神様の思いも無視した行動に、我慢の限界が来た……そんな感じ。


「――それこそ知らないってもんだぜ!!【支配しはい】は勝手に発動しやがるし!身体は目的のために手段を選ぶなって言うんだ!俺にどうしろってんだよ!!」


「なんですって!?」


 ガキン――と、セリスフィアさんを弾く。

 背後には【念動ねんどう】で浮く短剣……しかし、頭部の黒い角――【アルキレシィ】の角から電撃が発生し、それを落とした。


 バチバチィ――!!


「つっ……流石にアレに当たれば一瞬で黒焦げね、ああもう!早く来てよ!!」


 そんなセリスフィアさんの思いを無視するように、私も彼も、セリスフィアさんを注視するように挟み込んでいた。

 何故?……そんな意志はないのに、どうして対象がずれ込むような行動をするの?

 私も彼も、まるで自分の意志ではないかのように……戦闘は続いていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る