9-81【国境の村にて女神は集う5】



◇国境の村にて女神は集う5◇


 まずいことになったわ、まさかユキナリが【支配しはい】を使用するなんて。しかもミオの友人であるイリアさんに。

 更にまずいのは、人に対する【支配しはい】が、アイテムなしに発動できているという事。


「――ユキナリ!!なにをしてるのよっ!今すぐ【支配しはい】を解除しなさいっ!」


 ユキナリの事は純粋に好きだし大切な仲間だが、今回ばかりは完全なるやらかし・・・・だ。

 自暴自棄と言ってもいいほどの暴挙、無差別に八つ当たりをする場に、たまたま居合わせたイリアさんを、そのターゲットにするなんて。


「いいだろ姫さん。こいつは俺に恨みがあるんだってさ、なら――喧嘩したほうが早いだろぉ!!」


 眼光するどくイリアさんを見るユキナリは、既に戦闘態勢だった。

 いつの間にか魔物の爪グリフォンネイルを出現させ、頭部には黒い角があった。

 電撃を放ち、ミオが作った家を……崩壊させる。


「――バカッ!やめ……!」


 ドォォォォォ――ン!!


 ガラガラ……と、私たちの為に作ってくれたプレハブ小屋が崩れ、私は下敷きになった。


「何を考えてるのよ……あのっ……わからず屋!」


 頭上には瓦礫がれき

 掲げる右腕にはオーブによる風をまとい、その落下物を防いだ。


「風よ!……吹き飛ばして!!」


 太腿ふとももに巻かれたベルトに装飾される【オリジン・オーブ】に魔力を込め、風圧で小屋を吹き飛ばす。

 ブワァァァァ――と、一気に視界が開けた。


「ユキナリとイリアさんはっ……いない!!」


 魔力の痕跡がある……広い場所に連れて行ったわね、まったく!

 このままでは悪役に、いえ……もう充分やらかしてしまっているのに、これ以上の失態は関係性を悪化させる!

 ユキナリの個人的な感傷で、国の栄誉に関わる事柄を壊すわけにはいかない。


「風よ――ミオに言葉を届けて!」


 手のひらに集中し、三つの魔力風を作り出し言葉を送る。

 それは風に乗り、遠くにいる人物たちに私の言葉を届けてくれる。

 一つは一番この状況を打破してくれるであろうミオに、一つはユキナリの一番の理解者であるエリアルレーネ様に、一つは仲間であるライネに、そこにはクラウさんもいるだろうし。


「まさか言葉も聞かないだなんて。だけど、私も出来ることをっ」


 二人を追って走り出す。

 気配はまだ近い、幸いにも村は開けた状態……村人は既に地下から出て活動しているから、見られてしまうのは避けられないけれど。

 でも、なんとかしないと!


 部下の失態は上司の失態、責任は私にある。


「――ユキナリィィィィ!!」


 ここまで彼に怒りを覚えたのは初めてかもしれない。

 事情は分かるし、理解してあげたいとも思っていた……けれど、ここまで子供だとは。

 しかも時と場所の両方が悪すぎる……もう――最悪だわ!!

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