9-80【国境の村にて女神は集う4】



◇国境の村にて女神は集う4◇


 村人の他にも、ミオたちを手伝う人たちは少なくない。

 ミーティアやジルリーネを筆頭に、仲間と呼べる人たちが協力をしてくれて、今が成り立っている。

 ハーフエルフの少女、キルネイリア・ヴィタールもその一人。


「それじゃあ、帝都のお客様にお食事を届けてまいりますねっ」


「はーい、お願いね、イリアさん!」


 【豊穣亭ほうじょうてい】……今は燃えてしまった、この村唯一の宿の女将さん、レギン・スクルーズの手伝いをするイリアは、度々帝国皇女、セリスフィアたち一行の世話をしていた。

 今日もそう、これから食事を届けに行くのだ。


 イリアにとっての悲痛な衝撃が待っているとも……知らずに。





 なぜ、父や母が死ななければならなかったのだろうと、考えたことがあります。

 貴族に生まれた父と、冒険者だった母……エルフ族でありながら、人間族の貴族と結婚をし、私を産んでくれた。

 しかし幼い頃、父も母も他界し……私は一人になった。


「……〜っ……!」


「――……っ」


 話し声が聞こえる。

 叫びにも似た大きな声と、諭すように静かに声を発する人物たち。

 二人は帝都のお客様であり、一人は一応……【冒険者学校・クルセイダー】の同級生。


(入ってもいいものでしょうか……)


 大事な話なのなら、扉を閉めて欲しかったなぁ。

 しかし、壁に背を預け、一度時間を変えて訪れようとした私の耳に……その言葉が。


「――え」


 王国の貴族が死亡した、魔物襲撃事件など、数は多くない。

 最近では【ステラダ】……つまりは私の両親が亡くなった、【アルキレシィ】襲撃事件。

 魔物を捕らえ、襲撃させたクレザース家の横暴……エルフと結婚した長男、その妻を殺すための。


「……嘘……」


 魔物を連れてきたのは【常闇の者イーガス】だと、【ギルド】からもそう報告されていたのに。

 魔物――亜獣【アルキレシィ】を倒して、私の仇討あだうちは終わっていたはずなのに。


 いつの間にか、足が建物の中に。

 手に力が入らず、持っていたトレーが落ちる。


 ガシャン――!


「……あなた」


「キルネイリア・ヴィタールだったな、ミオっちの仲間の」


「……」


 彼が、ユキナリ・フドウが……【アルキレシィ】を連れて来た。

 この人がいなければ、こいつがいなければ――父も母も、死なずに済んだのに!!


「へぇ……なんだよその目、俺になんか文句でも?」


「……ユ、ユキナリ!やめなさいっ」


 分かってる、この人は何も考えてない。

 私の事情も、父や母の事もなにも……でも!


「あなたが【アルキレシィ】を、クレザース家にけしかけたんですねっ!!」


 当時幼かった私も、襲われた馬車に乗っていた。

 数年かかり、ミオたちの協力を得て【アルキレシィ】を倒すことが出来たが、その場に……この男もいた。


「あの時、洞窟で【アルキレシィ】に近付いたのは……初めから!!」


「だったらなんだ?あの角の魔物だろ?今もここにいるぜっ!?」


 自分の頭部を指さして、彼は挑発するように。

 皇女様は焦ったように。


「――ユキナリ!!あの時の事情を説明しなさい!あ、あなたも……落ち着いてっ!」


 皇女様が間に立ち、私と彼を両方落ち着かせようと試みてくれている。

 でも、許せない思いが……心を支配する――なにも、考えられない!

 もう振り切ったはずなのに、乗り越えたはずなのに……どうしてこんなにも彼が憎いの!?


 まるで自分の意志ではないかのように、私は彼を睨みつけ……そして、腰の剣を抜いていた。

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