9-78【国境の村にて女神は集う2】



◇国境の村にて女神は集う2◇


 村の山中で、剣戟が鳴る。

 カン!カカン!キィン!ガキッ!と。


「ふっ!」


「はぁ!」


 ガキィィィン――!!


 ギリリと鍔迫つばぜり合いで火花が舞う。

 聖剣同士の光は山の中からでもよく見え、村で仕事をする人たちも気にする人がいるだろう。

 しかしそんな事は、この二人には関係なかった。


「――やっぱり拮抗している見たいね、私たちの……実力は!!」


「そうみたいですね!でも、対人戦では負けませんよっ!」


 聖剣【クラウソラス】、聖剣【アロンダイト】。

 クラウ・スクルーズとライネ・ゾルタール。

 二人の聖剣使いの模擬戦は、もう既に連日続いていた。


「それよりいいんですか!体調が悪いと殿下にお聞きしましたけど!?」


「――平気よ、息苦しいのが続いていただけで、身体に不調はないわ!」


 キィン――!と、クラウは【クラウソラス・クリスタル】で【アロンダイト】を弾いた。


「……つっ!」


「――取った!!」


 後方に一歩引いたライネの隙を見逃さず、クラウは続け様にラッシュ。

 瞬時に【クラウソラス】を魔法剣へと変え、右腕を一閃した。


「――いたぁぁ!」


 勝負あり。

 今日の訓練は、クラウ・スクルーズの勝利に終わったのだった。





「これで二勝一敗ね」


「昨日のは引き分けでは……?一勝一敗一分ですよ」


 前髪で隠れる視線は私を射貫く。

 この子、大人しそうに見えて意外と気が強いのよね。

 腕が痺れてるくせに、これみよがしにその腕を使って片付けをしたり、その次の訓練では一度やられた腕をメインに戦ったり。


「先に負けを認めたのはライネだから、私の勝ちでしょ」


「なんですかその理屈、まぁ別にいいですけど……次は勝つので。それより、アイシアさんが心配してましたけど、本当に休んでなくていいんですか?」


「意外としつこいわね、平気だってば。私よりも……フドウくんはいいの?この前、日本の光景が見えてから様子がおかしかったわよね?」


 私はいいのよ、息苦しいのはたまにあるし、誰だってあるでしょうから。

 それよりも、あのバカでトラブルを抱えて突っ込んでくるような男がおとなしい方が怖いわ。


「あ〜……ええ、そうですね。理由は定かじゃないですけど、静かですよ」


「静かなのはいいんだけどね。なんていうか、あとが怖い」


「分かります」


 あのフドウくんが、用意した仮拠点に大人しく引っ込んでいる時点で、不気味すぎるのよ。


「当面は【女神オウロヴェリア】……だっけ、その女神の能力集めでしょう?ライネたちも手伝ってくれるのよね?」


「ええ、ご協力しますよ。それがエリアルレーネ様とセリスフィア殿下のご意思ですから」


 片付けながら、ライネは笑顔でそう言ってくれる。

 頼もしいけど、頼りすぎて悪い気もしているのよね……正直。


「はいタオル」


「どうもです」


 汗を拭き、風に当たる。

 もうすぐ春、運動時に限っては風も気持ちよく感じるわ。


「神の能力かぁ……」


「どうしました急に」


「ミオはいくつもの能力を所持してるけど、神の能力は少ないって言ってたのよ」


「はぁ」


「アイズに関する能力が五つ、そう考えれば……他の女神に関する能力も五つなわけでしょう?」


「ですね」


 ライネはタオルで顔を拭き、そのまま長い前髪を上げる。

 その前髪、目を隠したいわけじゃなかったのね。


「【無限むげん】とか、アイズが優先してミオに持たせた能力はともかく、オウロヴェリアとか言う知らない女神の能力なんて、どう探すのかなって」


「ましてやエリアルレーネ様やイエシアス様、ウィンスタリア様の能力もありますし……所持者を見つけたとしても、素直に渡してくれるか、ですね」


 そう。ミオは【強奪ごうだつ】で能力を奪えるようになったけど、こじれれば戦いは避けられない。


「能力を持っている転生者からやってきてくれるなんて、都合のいいこと考えすぎかしら……」


「ど、どうでしょうね……」


 不安にも似た予感と、近い未来を想定した予兆。

 私もミオも、また戦いに挑まなければならないと、思い始めていたのかもしれない。

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