9-77【国境の村にて女神は集う1】

※【国境の村にて女神は集う】では視点がコロコロ変わります。

 現時点での人物たちの心情などを書ければと思います。

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◇国境の村にて女神は集う1◇


 ミオたちの当面の目標である、【女神アイズレーン】の延命。

 その方法とは、最初の女神にして復讐の神、オウロヴェリアにまつわる能力を集めることだった。

 【強奪ごうだつ】や【破壊はかい】を始めとした、悪意によっては最悪の能力となるような、そんな悪いイメージの能力たち。


 ミオは既に二つ、言ってしまえば初めから所持していたわけだが。

 残りがどこにあり、誰が所持しているかも分からない状況だが、それでもミオたちは前を向くことを決めていた。

 そしてもう一つ……ミオが友と呼ぶ存在になると思っていた少年、ルーファウス・オル・コルセスカの正体が、【テスラアルモニア公国】の貴族だったことだ。


 彼はもうじきこの村に訪れるだろう。

 ミオの予測としては――【女神ウィンスタリア】を連れて。





 アイズさんを助ける方法を共有してから、数日が経過しました。

 ミオは相変わらず忙しそうに、村中を駆け回っています。

 クラウさんは少しだけ体調が悪いそうで、ミーティアがお世話をしていました。


 帝都からのお客様である方々も協力をしてくれて、村の廃材はいざいとなっていた燃え崩れた家屋の撤去も終わりそうです。

 地下の祭壇さいだんから出て、ようやく地上に上がってきた村人たちは、村の現状になげく人も大勢いましたが、【女神アイズレーン】に関連する事柄を学んだ以上、苦を直接口にする人はいませんでした。


 皆が皆、村を復興させるためにやる気に満ちています。

 あたし、アイシア・ロクッサもそれは同じです。


「――よし、これでいいかな」


「ありがとねぇアイシア」


「ううん、井戸が使えないと……やっぱり不便ですから」


 あたしは村の中央、洗濯所である井戸の修理を手伝っていました。

 とは言っても、井戸はミオが掘り直した新しいもので、前の井戸は、火災の際の魔力の影響で、使えなくなっているけれど。


「男どもの汗臭いのは嫌だからねぇ、働いてくれてはいるけど、ねぇ?ミオ坊っちゃんくらいに爽やかなら安心なんだけどねぇ!はっはっは!」


「あ、あはは、ですね」


 そう言いながらも、村の奥様方はせっせと洗濯を行う。

 口はきついが、嫌とは思っていないように見える……ううん、きっとそれでいいんだと思う。


「――うちの旦那も、まだまだ働き盛りだろぅ?せっかくアイズレーン様がご降臨されているんだ、生きているうちは貢献したいって、張り切ってるんだよ」


「そうなんですね」


 アイズさん……【女神アイズレーン】様の情報を祭壇さいだんで学んだ村の人たちは、歴史に埋もれさせてしまった女神様に対する態度を反省しました。

 それでもアイズさんは怒りはしません、過去の自分……あるいは先代のアイズレーンが、この村から自分の名を消そうとしたことが発端であり、約千年の歴史でキレイに消えてしまっていた情報を、再び蘇らせただけで充分だと、それくらいの信仰でも、女神の力になるのだと笑いました。


「それよりアイシアはいいのかい?ミオ坊っちゃんの隣りにいるあの子……もうミオ坊っちゃんといい仲っぽいわよぉ?」


「――え」


 そう。流石は田舎のおばちゃま方、噂は勿論大好きであり、村長の息子であるミオの色恋沙汰は特に、村の未来に関わるからだろうか。


「昔からよく村に来てたのは知ってるけどねぇ、村の人からすればやっぱりよそ者でしょう?……あたしゃアイシアの方がお似合いだと思うんだけどねぇ」


「あはは……いい子ですよ、ミーティアは」


 こんなことは、村のどこに行っても言われる。

 ミオの幼馴染であり、幼い頃から公言されてきた……ミオのお嫁さん。

 身を引いて、もう吹っ切っているつもりでも、周りはそうじゃないんだ。


「そうかい?……でも――」


「あたしは今、学ぶのが楽しいかな。アイズレーン様は御側付きに任命してくれましたし。これでもあたし、女神の後継者なんですよ?」


 まだなにか言いたそうなおばさまに、あたしはそう笑顔で言う。

 決して未練なんかじゃない、あたしの中での決別は既に済んでいる。

 これは未来に築く、この村の、この世界の、大事な命の光の為なのだから。

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