9-76【友の事情3】



◇友の事情3◇


 【女神ウィンスタリア】が崇拝すうはいされ、国民からうやまわれる国――【テスラアルモニア公国】。

 現在貴族が国を治め、かつて【パルマフィオキアナ森林国】という、エルフが治めていた国を奪い、つちかった国だ。

 ルーファウス・オル・コルセスカ、佇まいや言動から貴族っぽいとは感じていたが、やはり。


「ミオ、もしかして……予期していたか?」


 俺の顔を見て言うジルさん。

 そんな顔してただろうか……冷静沈着なつもりなんだが。


「まだ何も言ってませんけど、まぁそんなところです。ルーファウスはどこか貴族っぽいというか、特にエルフの国のことを気にしてましたし……もしかしたらって」


「……事実その通りだった」


 ジルさんは少しだけ悲しそうに、そううなずいた。


「ルーファウスさんは【テスラアルモニア公国】の貴族。それも……国に関わりのある部類の、公子らしいの」


 公子。つまりは王国で言う王子や王女、帝国で言う皇女や皇太子だ。

 旅をしていた冒険者なんかじゃなく、【テスラアルモニア公国】の中枢である貴族の息子。そういうことだ。

 だからルーファウスはジルさんを特に気にかけていた……自分の国が、大昔の過去とはいえ、土地を焼き民を殺し、国の名を奪い消し去った。


「でもそう言う割には……凄く、なんていうか……自分たちの先祖の行いを恥じていた感じだったな」


 ルーファウスが過去の、約百年前の惨劇を恥じ、後悔しているような言動もあった。森を焼き、土地を奪った事をさ。


「ああ――だからこそ、信じられる」


 そう言うジルさんこそエルフ族の当事者、奪われた側の立場だ。

 ルーファウスのその事実を知ってなお、ジルさんがそこまで言うのなら。


「ジルさんがそこまで言うのなら、俺は何も言いません……ルーファウスの事は信じる。それは俺も同じだし、出会った時に、友達になりたいって思ったのは本心です。あいつの持つ刀――【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】が転生者関連の装備だって言うのも、【女神ウィンスタリア】に関連している人物なら納得だよ……それに」


「それに?」


 もし、ルーファウスがこの村に訪れようとしている目的が、俺やアイズ、エリアルレーネ様と同様の内容ならば。


「それに――女神そっちから来てくれるのなら、大手を振って歓迎するさっ」


 ルーファウスが公子ならば、【女神ウィンスタリア】と近しい存在だと言う可能性が高い。

 あいつが俺と同じ思いで、俺を友だと言ってくれるのが本心なら、きっと女神はこの村に近付いてくるような気がするんだ。


「……お、お前……」


「ふふっ、ミオらしいね」


 ジルさんは半ば呆れ、ミーティアは軽快に笑う。

 俺は既に受け入れる覚悟を決めてくれている。

 この村にアイズがいて、エリアルレーネ様が訪れて、そして他の女神も現れる可能性は、とっくに想定済みなんだよ。

 だから、それがルーファウスによる招きなのなら、俺は感謝してやるんだ。

 目的への道が、ショートカット出来たって……な。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る