9-75【友の事情2】



◇友の事情2◇


 「ほら!早く!」と、豆腐ハウスの中からミーティアが俺とジルさんを呼ぶ。

 顔を見合わせて、俺たちも中に入る。

 ウィズが成形した豆腐ハウスの中には、地味めのテーブルと椅子が用意されていた。

 一つの素材から作ったものなので、固定式だが。


「……住めなくはなさそうだな」


「流石に、ここに住むのはやめてくださいよ?」


「……。……。……しないぞ」


 なんですかその間は。

 なんだかこのまま居着いてしまいそうなジルさんの言葉に苦笑いしながら、俺たちは席につく。


「それで……ルーファウスの話、ですよね?」


「ああそうだ――むっ、椅子が動かん!」


 固定式の椅子を引こうとして、ジルさんはガッ――!と。

 前世で、ファミレスとか喫茶店で見たことのある客だ。


「すいません、そのまま座って下さい」


「そ……そうなのか」


 もしかして椅子の足を壊そうとしました?


「では話をしよう。ルーファウス……あやつがこの村に来なかった理由をな」


 椅子に座り、テーブルに肘を置き、両の手の指を組む。

 まるでどこかの指揮官のように、ジルさんはルーファウスの事を話す。


「まずは、ミオとの約束……ルーファウスはきっちりとそれは守った。それだけは分かってやってくれ」


「国境、つまり村の近くまでは来てたんですね」


 俺がルーファウスに言ったのは、村に来るまで二人を守ってくれと、護衛をお願いしたんだ。

 ジルさんはルーファウスがしっかりとその約束を果たしたと、そう言っている。

 しかし、ここまで来てどうして、ルーファウスは国に帰ったんだ?


「そうだ。その前から何か悩んでいるようだったが……国境まで来てからそれを言い出してな」


「……それ、ですか」


「ルーファウスさんには、私たちに話していなかった事があったのよ」


 ミーティアが補足をするように言う。

 話していなかった事……隠し事とも言うそれが、ここにいない原因か。


「怒らないでね?」


「……別に怒りはしないよ。誰にだって言いにくいことはあるし、言えない事情もあるだろうから。でも、ルーファウスを信じてよかった……あいつはしっかりと二人を守ってくれてたんだもんな」


 約束を守ったその後にどうするかは彼の自由だし。

 ここに来れなかった理由がなんなのか、その伝言だけでは分からないこともある。


「ええ、それで本当なら……ルーファウスさんが村に来るまで話を待とうと思っていたんだけど」


「そうですね」


 ミーティアとジルさんは顔を見合わせる。

 勝手に話してもいいのかと、思案中のようだ。


 しかし状況が変わったから、話しておいたほうがいい……そんな感じの内容なのだと、察することは出来る。


「大丈夫、いずれ話すような内容なんだろ?なら本人がいないところで話しても、きっとルーファウスだって想定しているはずだし」


 俺たちが目下、目指す目的は女神関連。

 ルーファウスが村に訪れなかった理由と、ジルさんやミーティアが、今それを言わなければと思ったと言うことは……残りの女神、ウィンスタリアだ。

 ルーファウスは、【テスラアルモニア公国】であがめられるその女神と、深く関わりを持っているのではと、俺は思うのだった。

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