9-65【新しい世界が生まれる瞬間11】



◇新しい世界が生まれる瞬間11◇


 具体的な進展は、正直言って皆無かいむに等しい。

 それだけ逼迫ひっぱくしていると言うことであり、それに加えて選べる手段がもうないんだ。

 限りなくゼロに近い、アイシアの女神化を止める方法。


「あー疲れた、そろそろ寝るわ。あんたたちももう休みなさい……それと、エリアには今日はもう来るなって伝えておいて」


 バフッ――と布団を被り、アイズは顔まで隠した。

 話をする気はもうなさそうだな。


「分かったよ、お前もしっかり休めよ?」


 最後まで話さないと言うことは、まだ話せるということ。

 だから無理に聞き出すことはなしない。

 だけどもう、時間がないのも本当の事……なんだろうな。


「じゃあ、行きましょうアイシア」


「うん……」


 アイシアをともなって、ミーティアが部屋の外へ。

 ミーティアはさり際に俺を見る、俺も返す。

 コクリとうなずいてくれるミーティア……理解が早くて助かる。


 俺が残った……その事に気づいたアイズは。


「何残ってんのよ」


「……ちょっと聞きたいことが」


「はぁ?」


 露骨に嫌そうな顔をするんじゃない。

 ほんのちょっとだけど傷ついたぞ。


「よいしょっと」


「なにベッドに腰掛けてんのよ、襲う気?」


 そんな趣味はないし、俺にはミーティアがいるんで間に合ってる。


「――単刀直入に聞くぞ」


「……なによ」


 御託ごたくを並べるつもりはない。

 俺は直球勝負、ど真ん中だ。


「――お前を人間に戻す方法はないのか?」


「――!!あ、あんた……っ!?」


 これは半ば、無理だと分かっていて聞いている。

 アイシアが神に成る事が避けられない事柄ならば、それを受け入れて進むしかない。

 出来れば避けたかったが、アイシア本人が受け入れていると言うこともある、ならば……残すのはアイズを消えさせない――死なせない方法を模索しなけれならない。


「多分無理なんだろ、それは俺も薄々だけど分かってるつもりだ……だけどなにか、ほんの少しでも方法があれば、可能性があるなら……賭けてみないか?」


「いつになく真剣じゃない……ミオあんた、どこまで本気なわけ?」


 いつになくとは失礼じゃないか?

 俺はこれでも真面目なつもりで生きてきたが。


「百パー本気だって、出来ることなら何でもする……それにはお前の知恵も必要だし、力も貸してほしい。だから諦めて消えるとかは無しだ」


「……」


 今こいつが消えたら、アイシアが女神としてこの村の象徴に成る。

 別に荷が重いとか、させたくないんじゃなくて……なんて言うのかな、俺はどっちにも消えてなんか欲しくないし、出来れば皆と幸せになりたい。

 それが全部出来ないことは分かってるさ。

 ミーティアを選んだ俺がアイシアを幸せにするとか……それは傲慢ごうまんで浅はかだ、充分理解してる。

 だけど、勿論死んでほしくはないし、幸せになるに越したことはないだろ?


「アイズは今の身体のまま女神に成ったんだよな?確か千年くらい前だっけ」


「約、ね」


 そうなれば当然、人間の身体が持つはずがない。

 神力とか、そんな意味不明な力で持たせているに決まってる。

 女神でなくなれば、それも失われる……そうなれば、朽ちるのみ。

 アイシアが女神として確立すれば、その時点でアイズは朽ちて消えてしまう、そんな残忍で残酷な未来……絶対に認めるわけ無いだろ。

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