9-63【新しい世界が生まれる瞬間9】



◇新しい世界が生まれる瞬間9◇


 【女神アイズレーン】。

 この異世界で古くから語り継がれ、そしていつしか忘れられ、果てには村に名すら残っていなかった……俺たちが称えるべき、信仰すべき神様だ。

 どの口で言うのだと、自分でもそう思うさ……でも苦しむのも悲しむのも俺たちであり、そしてアイズとアイシアなんだ。


 アイズは言う、アイシアがそうならない為の方法が二つ残っていると。

 だから聞かなければならない。俺が、俺たちがそれを成せるのなら。


「――まずその一つ……簡単よ、本来なら。これ以上能力、【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】を使わないことね。言っちゃえば、女神に関連することに関わらないこと……それも難しいだろうけど」


「……はい」


 だろうな。この村にいる以上、それからは逃れられない。

 アイシアがこの村を出ても、EYE'Sアイズとしての運命が引っ張りつけてくるんだろう。

 それに、アイシアにはこの村にいて欲しいよ。幼馴染として生まれ育ち、運命に翻弄されたとしても。


「能力は?アイシアの能力は、自分でも制御できるタイプの能力じゃないんだろ?」


「う、うん。目を閉じてても光景が見えちゃうから」


 その濃い紫色の瞳は、アイズと全くの同じ。

 だけど俺たちスクルーズ家みたいに、種族で緑色の瞳が同じだと言う、そんな理由じゃもちろんない。

 そう言えばセリスは、【オリジン・オーブ】を使ってる時も瞳の変色は無かったな、能力発動で金色っぽくはなっていたけど、紫ではなかった。

 ミーティアも、青いままだしな。


 つまり瞳の変色は、アイシアとリアだけか……何か、あるんだろうか。

 ミーティアはそもそもEYE’Sアイズとしてではないからだろうけど、セリスは?彼女はEYE’Sアイズのはずだが、価値観も思考も全部違うというか、EYE’Sアイズを拒否しているようにも感じられたな。


「続けるわよー。【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】は自動発動型ね、あたしの【拡張探索エクステンション・サーチ】とかとは別物、よりによって厄介な能力よ」


 厄介な能力か、分かる気もする。

 転生者である俺の能力にも自動発動型の【美貌びぼう】や【丈夫ますらお】なんかがあるが、大概が選択型というか、自分の意志で発動可能であり、【叡智ウィズ】を除けば厄介な能力という認識はない。


『――失礼な』


 ウィズの文句は聞かないとして、この能力の自動発動は本当に面倒なところが多い。

 【美貌びぼう】や【丈夫ますらお】は、成長を促進そくしんしてくれるような、いわば成長バフ能力。これについてはあってくれて助かる能力だ。

 しかしアイシアの能力は違う、否が応でも発動し、更には辛い現実の未来や、避けられない絶望をもせられる。


「私の場合とはまた違いますね……同じ【オリジン・オーブ】でも、ここまで別物の力が体現されるなんて。私のは氷の操作……よね?慣れれば、水もいけそうな気がするわ」


 ミーティアは手のひらに氷を生み出して言う。その通り、明らかに種類が違う。

 青の【オリジン・オーブ】は、水や氷の操作や、それをもちいた創作を可能にするものだ。その他にも魔力の上昇や身体能力の上昇もあるだろう。


「だな。リアのあのバーサーカーみたいな能力も、分類で言えばアイシアと同じだろうけど……この前は暴走してなかったし、むしろ使ってても安定し始めてた」


 そして新しいEYE'Sアイズ、セリスだ。

 彼女は風を操作していた……ミーティアと同じ操作系なんだろうな。


「問題は――紫は特殊だという事よ」


「「え」」


「そっか……だと思ったよ」


 なんとなく予感があった。

 何か不思議な感覚を覚えるアイズの紫色の瞳、それと同じ色の宝珠。

 名は体を表すではないが、紫という色そのものが、【女神アイズレーン】を表す印なんだ。

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