9-59【新しい世界が生まれる瞬間5】



◇新しい世界が生まれる瞬間5◇


 言ってることは似たような事なのに、思想が真逆だ。

 俺は世界一の村にするとは言ったが、それは自分や家族、友人たちが住みやすくするための、自己満だ。

 だけどこの皇女様ときたら、世界を見てる……視野がワイド過ぎて、俺には眩しすぎる。


「そんな事を言われたってなぁ!俺には俺の考えがあるんだよっ」


「そんなの当然だわ、だからついで・・・にすればいい」


「は、はぁ!?」


 ついで。世界一がついで?

 皇女はようやく俺の頬を離す。

 一歩後退して、それでも俺を視線から外さずに。


「……君、私の能力はなんだって言ったわよね?」


「え?ああ……言ったけど、知らないんだろ?」


 実は知ってましたってか?


「実は分かってるのよね」


 おい!


「ごめんね。昔から、エリアルレーネ様に隠しておけって言われてて。でも安心して、発動もしてないわよ?」


「……安心できないよ、そのセリフ」

(一度発動しかけてたじゃないかよ)


 だけど、それを俺に言うのか。

 信頼を得る為に、女神の作戦をも利用する……最上がどちらかを、見極めて。


「じゃあ教えない」(プイッ)


「は、ちょっ!」


 何この人、気まぐれ子猫かよ!


「冗談よ。ふふふっ……やっぱり君は面白いね、出会って来た転生者で二番目に好きかも」


「……そ、それはどうも」


 じゃあ一番は誰だなんて質問はしないが。


「では、ミオ・スクルーズ……私は【サディオーラス帝国】第一皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス。【女神エリアルレーネ】さまによって転生した転生者……転生の特典ギフトは――【英雄えいゆう】よ」


「【英雄えいゆう】……」


 誰もが成れるものではない、憧れる人間が山ほどいる。

 魔王を倒したり、世界を制覇したり、世界でも一握りの……そんな存在そのもの。

 それが、能力なのか。


「私の言動や行動から、それがこぼれる時があるらしくてね……困る時もあるのよ。でも、私は思ったまま行動しているし思ったまま喋ってるつもりよ」


 あの時の、問答無用でしたがいそうになった感覚はそれのせいか。

 でも、今はそれも感じない。


「ミオ・スクルーズ、君には私に似たものを感じる……これは私の勘であって、エリアルレーネ様も他の転生者も関係ないわ。でもね……アイシアさんが見せた光景の、あの近くて遠い――新しい世界を作る鍵は、貴方が握ってると思う」


「あんたは……ったく、規模がデカいんだよ。俺は悠々自適なスローライフがしたかっただけなのにさ、転生者がドンドン出て来るし、女神がどうとか巻き込んでくるし、王国は攻めて来るしで……考えがまとまらないよ」


「それは運命ね、あ!もしかしたら私の女神さまに当てられたのかもよ?」


 嫌な的中だよ、それ。

 【運命の女神】そして【豊穣の女神】、二人の女神が俺たちをその物語に引き込むって言うのなら……いいさ、全部乗り越えてやる。


「――全部叶えるのは一苦労だなぁ……ま、言い出しっぺには協力してもらうけど、それでいいんだよな、セリスフィア」


「……ええ、勿論。【英雄カリスマ】の名にかけてでも、この村を世界一にして見せるわ」


 はぁ……また大それたことになりそうだ。

 だけど、巻き込まれた物語。

 それでも自分が主役の物語……今度は自分から進んで動く時なのかもな。

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