9-58【新しい世界が生まれる瞬間4】



◇新しい世界が生まれる瞬間4◇


 セリスフィア皇女は俺に許可を求めて来た。

 それは本来、村長である父さんに貰うものだ……だけど、俺にも一つだけ自覚がある。


 経済面や復興など、各所への挨拶や支援要請……それは村長の仕事だ。

 だけど、今俺たちが直面するのは、女神と転生者だ。


「セリスフィア皇女は……いや、帝国自体を信用していいものなんですかね」


「あら、信頼できないかしら?」


 そうではないけど。

 でも、不審な点も多くあるのは隠し切れない。

 それとも隠すつもりもなくなったのか、皇女はそう思わせるほどに友好的でフレンドリーだ。ちょっとスキンシップが多い気がするけど。


「じゃあ質問を変えます」


「なぁに?何でも答えちゃうわよ?」


 じゃあ聞くけど。


「……目的はなんだ。この村に来た目的、協力する意図、どうしてここまでしてくれる?」


「……」


 まるでポカンとした顔だ。

 俺がおかしいのかと思わせるくらいには、そんな顔で俺を見ている。


「――君、人の優しさに触れてこなかったでしょ?」


「!!」


「あーそれはこの世界じゃないよ。あっちの世界ね、前世」


「……な、にを」


「私はねミオ、この世界が割と好きよ……でも、日本も好きだった」


 俺は……どうだろうな。

 嫌いじゃない、が正しい気がする。

 好きではなかったよ、確かに。


「両方好きなら、同じ様になれば最高じゃない?」


「同じ様に?」


「そう!それこそ……さっき見た光景の様に、ね♪」


 まさか、この人。

 あの光景を……現実にするつもりか!?


「それはオーバーテクノロジーだと思う、この世界には色々と……まだ早い」


「そんな事は無いわよ、何事も初めがあればいい……一歩目を踏み出す人がいれば、おのずと皆ついてくるもの。怖いのは初めだけ、痛いのは最初だけってね」


 ファーストペンギンって奴か。

 経験不足の中で、一番初めに実行した奴の後ろを続々とついていく。

 そうして成長していく。


「君がその初めてになるって、そう言う事か?」


「ふふっ――いいえ。それは私じゃないわ」


 皇女は両手を広げて。


「こんなにも広くて素晴らしい異世界……一ヶ所に留まっていたってつまらないわ、だから私は色んな所に行きたいし、来て欲しい」


「……」


 広い考えを持てるならそれに越した事は無いけど。

 だけどそれは実行できる人が持つものだ、多くは排他的な考えの持ち主で、そこまで広域で人を見ないんだよ。


「この村を世界一にする……んでしょう?」


「……な、なんでそれを」


 この人、恥ずかしげもなく人の夢を。


「私の言ってる事と、どう違うのかしら?」


「……は?」


「世界一の場所なら、私のように行ってみたいと言う人間は多々いるわ。その場所で根を張る人もいるでしょう……それが私とあなたの違い」


 歩み寄り、皇女は俺に目一杯近づいて……目を見て続ける。

 なんで逸らせないんだ……このっ。


「私は……この村を、世界の中心にしたい」


「――は、はぁ??――んぎゅ」


 目を逸らそうとした俺の頬を、ギュッと挟み込んで逃げられなくする皇女。

 ちょっと強引なんだけど!


「この村を基準に、世界が発展する。そうすれば……あの光景の未来が訪れても何も言わないわ、文句も出なくすればいい。言いたい奴には言わせておけばいいし」


「そ……れは、そうかもだが!」


 規模がデカすぎるんだよ!村だぞここは!

 確かに俺は言ったよ、世界一の村にするって……だけどそれは、あくまで村である事、俺たちが過ごすことだけを考えた結果なんだ。


「だがじゃない。なら……考えを改めなさい」


 この人無茶苦茶だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

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