9-55【新しい世界が生まれる瞬間1】



◇新しい世界が生まれる瞬間1◇


 優しい光と魔力の波動は、【豊穣の村アイズレーン】全体を包み込むように広がって行く。

 空に、森に、そして地下にまで。


「こ、これはっ」

「あ……あなた!」


 地下にいるスクルーズ夫妻も。


「これ……いったい」

「うっ……レ、レイン……?」


 教会内で休むレインと、レインを守るために傷付いたアドルも。


「コハクちゃぁぁん!」

「大丈夫だよ……これは、あったかい」


 コハクをはじめとした、村の子供たちも。


「不思議ねぇ……なんだか懐かしいわぁ」

「ベラさんは、心当たりが?」


 村で働くサポーター系転生者、ベラ・イダソーンや雑貨屋ディン・トルタンも。


「この魔力……もしかして先程上に行ったクラウたちに、何か」

「お、おいハーフエルフ、この魔力は!」


「知りません。私に聞かないでください」


 作業をしていたキルネイリアに、ジルリーネの使いで訪れていたエルフ、サイグス・ユランドも。

 この村にいる誰もが感じる事が出来た暖かい光と魔力は……全ての人にある光景を見せた。


 それは地上にいるミオたちも同じで、いや……距離が近い分、もっと鮮明に、リアルにクリアに見えただろう。





「――これは……アイシアの、能力なのか……?」


 波紋のように広がりを見せるアイシアの魔力。

 空に広がり、大地を包み、どんどん大きくなるそれは……まるで映像を映すプロジェクターのように、何かを映しだした。


「これって……ちょっとミオっ!」


 その映像を見て、クラウがミオに叫んだ。

 当然同じ考えのミオは。


「分かってる。すまないティアっ!ジルさん、アイシアを頼めるかっ!?」


 駆け付けたばかりのジルリーネも、アイシアの傍にいるミーティアも、この光景は見えている。しかし、最優先されるべきは……その光景に心当たりのある人間。

 つまり……転生者だ。


「まかせて!アイシア……ゆっくり呼吸をして、ね?」


「……いったい何がどうなっている、こんな魔法は知らないぞ……」


 辺りを警戒しながらアイシアのもとでしゃがみ込むジルリーネの言葉に、ミオは。


「いや、魔法じゃない。これは能力で……この光景は」


「――まるで地球よね?」


「……ええ、ですよね」


 ミオの傍に来たのは、セリスフィア皇女。

 彼女もまた、見覚えがあるからそう言える。


「――殿下!!」

「エリアルレーネ様ぁぁぁ!」

「エリアに姫さん、無事かぁ~?」


 駆けて来るのは帝国の皇女に仕える三人の軍人。

 順にライネ・ゾルタール、ゼクス・ファルゼラシィ、ユキナリ・フドウだ。


「うお……これ、まるで日本じゃん!」

「やっぱりそうよね、私は地方民だったけど……」


 ゼクスとライネにも、やはりそう見えるようだ。

 しかし当然、ユキナリ・フドウは。


「――これが、日本……!!」




「この魔力は【オリジン・オーブ】のものだ。そしてそれはアイシアから出てる……未来を見せる能力……アイシアの力」


 ミオが見つめるのは……瞳を閉じて、魔力の波動に身を任せるアイシアだ。

 確かにその魔力はアイシアから……アイシアの体内に入り込んだ【オリジン・オーブ】から発せられている。だからこそミオは確信した。


 これは……いつか訪れる、未来の世界の光景なのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る