9-53【視ていく者5】



ていく者5◇


 村が迎えたお客人の一人、帝国皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス。転生者にして――EYE’Sアイズ

 転生の特典ギフトすらも未確認である彼女の持つ【オリジン・オーブ】は、緑色……風をつかさどる神秘の宝珠だ。


 強風の舞う中で軍服バトルドレスのスカートがひるがえり、太股ふとももに巻かれたレザーベルトが露出する。

 そこには、エメラルドのように四角に加工された【オリジン・オーブ】が輝いていた。





「アイシアさん!胸にかけたオーブに集中なさいっ!抑え込むのよ、包み込むように、優しく!突き放すのではなく、受け入れるようにっ!」


 まるで、過去に自分がそうしてきたかのように、セリスフィア皇女はアイシアに言葉を並べた。突如として起こってしまったアイシアの暴走に、アドバイスを掛けてくれる。


「うぅっ……お、抑え……こむっ」


 次に皇女は、アイシアのすぐ後ろまで迫ったミーティアへ視線を送り。


「ミーティアさんだったわね。もし動けるなら彼女を支えてあげてっ……魔力を持たない彼女には、オーブの魔力波長は辛いはずよっ」


 本来魔力を持たない一般人は、他者の魔力で酔ってしまうんだ。

 吐き気や眩暈めまい、頭痛とかを引き起こしてしまう。


「は、はいっ!」

(やっぱり彼女、【オリジン・オーブ】を所持していたのね……だからあの気配、地下で感じた共鳴も、リアちゃんじゃなくて、彼女だったんだっ)


 内心で確信を得つつも、力を振り絞るように踏み出して、ミーティアはアイシアの背を支えた。

 そして補助をするように、優しい水色の魔力の波を発生させる。


 相殺しているんだ……アイシアの【オリジン・オーブ】が出す力強い不和を、自分の【オリジン・オーブ】の正しい魔力で。


「く、くそっ……俺はなんでこんな時になにも出来ないんだよっ!」


「悲観しないでミオ、あいにくEYE’Sこれはそう言うものだもの。転生者とかは関係ないわ――そうですよね、女神さま?」


「え」


 その言葉は後ろに。

 俺が振り向くと、そこには女神が二人……立っていた。


「――やられたわね。主神の奴……あたしと一番相性のいいEYE’Sアイズが芽吹くのを見計らって、始めからオーブに細工をしてたんだわ」


「ア、アイズ!エリアルレーネ様も……!」


 アイズはエリアルレーネに支えられるようにして、フラフラで立っていた。

 地下から出て来て大丈夫なのかよ……それに、ああもう!色々と起き過ぎなんだよ!!


「セリスっ!ここで力を見せる意味……分かっていますね!――頼まみすよっ!?」


「はい!お任せを、エリアルレーネ様――ミーティアさん、私のオーブと波長を合わせて!」


「は、はい!……アイシア、ゆっくり、しっかり!」


「ぅ、うん……」


 セリスフィア皇女がかかげる左手には、周囲に振り撒かれていた魔力が収束され、今度はごく自然に放出されて行く。

 その魔力は力が抜けるかと思う様なほど優しく、アイシアとミーティアの周囲をおおう。

 それに合わせるように、ミーティアも右足に集中し始める。


「……」


 凪のような魔力の波長。

 水面みなものようなミーティアの魔力に、セリスフィア皇女の魔力が重なる。


「うん、いいわ……オーブの流れは分かるわね?そのまま深呼吸をするように、宝珠に魔力を返してあげて」


 無言だが、しっかりとうなずくアイシア。

 濃い紫色の瞳は、魔力を放つオーブに集中され……目視できるほどに濃厚な魔力が、やがて――


「落ち着いてきた……これなら!」


 魔力の波動が治まって来た。

 突如始まったアイシアの、EYE’Sアイズとしての暴走……ミーティアとセリスフィア皇女のおかげで事なきを得たが、俺は何も出来なかった。

 そんな空虚な思いを抱えながらも、俺は二人の元へ歩んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る