9-52【視ていく者4】



ていく者4◇


 苦しそうに目を押さえるアイシア。

 ミーティアが肩を擦り、俺はアイシアの【オリジン・オーブ】に注視する。


「……これは……!」


 眩しいほどに光が増して。

 アイシアは苦しそうに小さくうめく。


「うっ!」


「アイシア!?」

「アイシア!」


 【オリジン・オーブ】はドンドン光り輝き、やがて目が開けていられないほどの光量を発生させる。

 その光は魔力までも含まれていて、俺とミーティアは……


「――きゃっ!リアちゃんっ!」


 アイシアがおぶっていたリアも吹き飛ばされ、ミーティアが受け止めた。


「う……ぉぉっ!」


 数歩後ずさる程度だが、それでも波動だけで動かされた。


「……」


「アイシア……っ!」


 かすかに見える光景は、【オリジン・オーブ】の光に包まれるアイシアが少しだけ宙に浮き、虚空を見つめるその紫色の瞳が、更に濃く変色を果たしていく姿だった。


「くそっ!オーブの調整を考えた矢先にっ!」


 俺は【無限むげん】を発動しようとしたが……


『――不可能です』


 地面を操作しようとしても反応しない。

 石ころを操作しようとしても何も出来ない。

 その理由は……おそらくオーブの光。


「この魔力、アイズのっ……!」


 【女神アイズレーン】の魔力の本質。

 この世界に来る前に封じられたという、アイズの本来の力。

 これは、それそのものなのだと理解した。


「アイシアぁぁ!」


 ミーティアが手を伸ばす。

 リアを抱えたまま、アイシアに向けて。


 これは……ミーティアの方が動けてる!?

 まさか【オリジン・オーブ】があるからか!?


 その行動原理に反して、俺はほぼ動けない。

 だが……そんな俺の背後から。


「――それじゃあ、私が助けてあげる」


「なっ!……え?」


 俺の後ろ……気配すら感じなかった女性がそこにいた。

 帝国皇女、セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスが。


 スタスタと、セリスフィア皇女はこの波動の中で歩んでいく。


『――この反応は……!』


 嫌でも分かる。

 この魔力の波動の中で動けるミーティア、そしてそれ以上に動けてしまう皇女。

 彼女もまた……EYE’Sアイズなんだ。


「た、頼むっ!セリスフィア殿下……!」


 白金プラチナブロンドの後ろ姿は、俺に手を向けて返す。

 何だこの人……頼もしいんだが!?


「――神に選ばれるなんて、光栄だけど荷が重いわよね。私も拒否した、あなたにも出来ると思うんだけどね……そうじゃなくって?」


 セリスフィア皇女はそう言い、左手を掲げる。

 左手に収束していくのは、皇女自身の魔力か……いやそれだけじゃない。

 アイシアの【オリジン・オーブ】から放たれている魔力も、吸収している!?


「うっ……うぅ」


「意思を強く持ちなさい。暴れ馬を乗りこなすのと同じ……自分のものにするのよ!」


 魔力によって風が舞う。

 その風はセリスフィア皇女の黒い軍服のスカートをなびかせ、脚部を露出させた。


 見えてしまった。

 皇女の太股ふとももに巻かれたレザーベルトに、緑色に輝く宝石がきらめいているのを……緑の【オリジン・オーブ】を。

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