9-50【視ていく者2】



ていく者2◇


 おかしい、なんだこの状況……違和感しかないぞ。

 必死になって村に帰って来てみれば、何故かミーティアとアイシアが二人で迎えてくれて、そのミーティアは赤面で混乱顔。

 逆にアイシアは清々すがすがしいほどの笑顔で、ミーティアと俺を見てる……訳が分からないぞマジで。


「えっと~~?どうしたらいいの?」


 ミーティアは硬直して、俺の手をジッと見ている。

 アイシアは変わらずニコニコでミーティアを見てて……既に数分だ。

 俺は教会に行こうとしたが……「動かないで」とアイシアに怒られた。何故。


「す、す……す!」


 す?いったいどうしたミーティア!?

 口がアヒルのようになってるぞ!?


「なぁティア、どうしちゃったんだよ」


 離れて数日、俺だってこうして会えて嬉しいし、みんな無事に村に着いてくれてホッとしてるけど。どうしてこんな、まるで会っていない間に疎遠そえんになってしまったかのようになってるんだ。


「い、いいからっ!目を閉じてぇ……」


 目を思い切り見開いて、腹の底から出すような、ミーティアの目一杯の低音ボイスだった。


「あ……はい」


 強烈なほどの圧だった。

 思わず二つ返事で目を閉じる。


『――接近』


 何が!?まさか敵か!?

 急になんで、いったいどこのどいつ――


 ぎゅっ


「ん!?」


 両腕の隙間から背中に回るのは、細い腕。

 腹部から胸にぶつかったのは、少し冷えた柔らかい身体。

 冷えているのに感じる熱は……ミーティアのものだと直ぐに分かった。

 分かったのはいい、いいのだが、どうして急にミーティアがこんな事をする?


「お、おかえり……」


 俺に抱きつき顔をうずめ、ぼそりと恥ずかしそうにする。

 俺はつい瞳を開けた……一番先に視界に入ったのは――先程の笑顔を一転せた、アイシアだった。


「……」


 一筋、頬を流れる雫。

 そして小さく呟く「……」。聞き取れなかったが……ウィズが。


『……「これでいい」と』


 ああ……そうだな。

 アイシアは、ミーティアにわざとこうさせたんだ。

 ミーティアが自分から進んで、人前でこんな事をする訳がないからな。


「あ、あの……ミオ?」


「うん。ごめんなティア、こんな事させて」


 俺はアイシアの意図を理解した。

 これは、アイシアが告げる決別だ。


「えっと――わっ」


 顔をあげようとしたミーティアの髪を撫でるように、俺はそっと手を添えて胸に押し付ける。

 アイシアがそうするなら、俺もそうする。


「ただいまティア、よく来てくれたよ。会いたかった……うん、めちゃくちゃ嬉しい!」


「わ……たしもだよ」


 アイシアがミーティアになにを言ったかは分からない。

 ただ、ミーティアに何かをさせて……俺との関係を元に戻そうとしたんじゃないかと、そう感じた。

 正直言って、そこまでする理由は理解出来ない。

 だけど、俺がここでミーティアを突き放しでもしたら……大変な事になるのではという直感があった。


「――ふふっ、仲いいんだね二人共!もう、次は二人の時にしてね?恥ずかしいからっ」


 リアを抱えたまま俺たちの所まで来て、小さな声でミーティアの耳元に何かを言う。多分……「ありがとう」だ。


「――はぁ……恥ずかしいよミオ」


 胸にうずまったままそう言うミーティア。

 ここまでしたのは、アイシアの為なんだろうか。

 俺はこの対応で間違っていなかったのだろうか。


 その紫色・・の瞳でる景色に映る俺たちは、辿たどり着く未来を忠実に再現しているのか……それとも変わった未来なのか。

 それだけは、アイシアにしか分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る