9-48【次代の女神】



◇次代の女神◇


 アイシア・ロクッサ。

 【豊穣の村アイズレーン】で生まれ育ち、EYE’Sアイズとしての資格を持つ村娘の少女。

 最も今の【女神アイズレーン】と親和性が強く、同じ未来を辿たどる運命を受け入れようとする、その少女。


「あたしはまっさきに、この村を守りたいと思ったんだ……宝珠を持ったからなのか、そもそも深く考えてなかったのか、そこは分からないけどね」


 同じオーブを持つ者同士だが、考えは正反対。

 同じ少年を好いた者同士でも、真逆の選択をした。


「あたしはこの宝珠が浸透した時……ミオの事を考えられなかった。ミーティアは、ミオの事を考えたってさっき聞いて、だから嬉しくなった」


「……あんたねぇ……」


 そう苦しそうに呟いたのはアイズだ。


 アイシアはアイズに直接、お守りとして【オリジン・オーブ】を渡された。

 アイズは本当に、ただのお守りとして……アイシアが能力を抑え込む事を想定して譲渡したのだが、結果は反対……更に能力を覚醒させた。

 それはアイシアの思考そのものが、そちらへ偏っていてからだと、ベッドに腰掛けるアイズは……気付いた。


「どうして自分から人間を辞めるような選択をするの。普通に生きて、普通に恋をして、普通に年を取って……そうして幸せに死んでいく。女神はそんなことも出来ないのよ?」


 これだけはミーティアの選択が正しいと、この場にいる女性陣は思うだろう。

 更にアイズには、歴代の女神じぶんたちがどういう運命を辿たどったのかも分かっているのだ。

 それが分かるからこそ、自分から進んで女神に成ろうとするアイシアを、理解する事が出来なかった。


「分かってます。でもこの場所は……皆の帰る場所だから、だから守りたいと思った。後先なんて考えない、自分がどうとかどうでもいい……だけど、この村の……家族や友人、大事な人たち……これから生まれてくる子供たちは、守らなきゃって。そう思って……ううん、もう決めてたんです」


 もう、自分が女神に成ると……決まっているように。

 人間を捨て、この村を守るいしずえになるのだと。


「「「……」」」

「……そう」


「――バカね、女神あたしは」


 何も言えないのは、イリアとジルリーネ。

 悲しそうにするのは、ミーティア。

 諦めたように頷くのは、クラウ。

 そして自分の無力さに嘆く……アイズ。


 決断はもうしているとアイシアは言う。

 その時点で、人間としての恋は終わっているのだと。

 みずから手放し、誰かを守るために。


 運命は大きく違うが、それはミオの考えともよく似ている。

 ミオは誰かを守る力を求めている……自分よりも、他者を守る事を。

 よく似た幼馴染の二人だからこそ、この決断をした。


「ミオとも、もう話はしたの……だからねミーティア――」


「……え」


 それはたった一つの未練。

 アイシアがミーティアに懇願するのは……それを断ち切って欲しいと言う、ほんの一つの、恋する女の子としての最後の我儘だった。

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