9-47【二つのオーブ5】



◇二つのオーブ5◇


 その日、【豊穣の村アイズレーン】へ集った神の作成しアイテム。

 【オリジン・オーブ】。次代の女神を選別するためのそのアイテムは、五柱の女神の中で最も遅く誕生した、【豊穣の女神アイズレーン】を基準とする。

 六種の属性ごとに六色の宝珠として成形され、持ち主の意思によっては形を変える。


 村に集った三色のオーブは、アイズがこの世界にやって来たときに落下し、落としてしまったものだ。

 落としたのは三つ、そしてアイズの手もとに残っていたのが、青と紫の二つ。

 つまりミーティアとアイシアが使用するオーブだ。


 六つあるはずのオーブだが、落とした三つと残りの二つ。

 もう一つのオーブは、前回の選定から行方不明だった。

 だから現状、残り一人と考えてもいい。


 青の【オリジン・オーブ】はアイズがミオに託し、ミーティアの身体と一体になる事によってEYE’Sアイズとしての効力を無くし、ただ単純に強力な神具として覚醒した。


 紫の【オリジン・オーブ】はアイズみずからアイシアに託し、最良の相性だったアイシアと最適解され、現在……最も女神に近しい存在と成っている。


 【竜人ドラグニア】の少女リ・アイリスは、アイズが落とした宝珠を拾っていたが、宝珠のオーバースペックに幼い身体がついて来れず、暴走が多くなっていた。


 しかしその他にもまだ三人、世界のどこかにEYE’Sアイズが存在することになる。

 だがそれは、既に女神の選別が終わりに近いこの状況では……あまり関係ないのかもしれない。





「――よかった、ミーティアがそういう考えで」


 ミーティアの白い脚を見ながらフッと笑い、アイシアは立ち上がった。


「えっと、どう言う意味?」


 小首をかしげるミーティアは不思議そうにアイシアを見るが、アイシアは何か、そのすれ違っているような考えを元に戻さないように、慎重に言葉を紡ぐ。


「あたしとミーティアの考えがね、まったくの正反対だったから……つい、嬉しくなったの」


「嬉しい……?私が、ミオを支えたいってことが?」


 そう、ミーティアは今し方そう言葉にした。

 【オリジン・オーブ】を得て、ミーティアがまっさきに考えたことは、“ミオの力になれる”だったのだ。

 しかし、アイシアはそれと反対だと言う……それはつまり。


「うん。あたしはそう考えなかったから……そこがあたしとミーティアの差だったのかもね」


 大切な人を想う感情と言うべきか。

 それとも優先度の違いか。


「アイシア。それはつまり……同じ状況のミーティアとアイシアでも、考えは正反対だった、それがミオにふさわしくないとか……そう思ってるの?」


 ミオの姉、クラウが少し怒気を籠めてアイシアに言う。

 アイシアの言葉に、少女として……女として諦めたのかと。


「少し違います。あたしは……やらなきゃって思いました。この宝珠を手にしてから、未来をる頻度も増えましたし、実際にミオがミーティアを選んだことも、それで知ってしまった」


「そう……なのね」


「それでも、考えは一つの方向に傾いたんです」


 アイシアは真剣そのものだった。

 ミーティアは、アイシアにミオとの関係をどう伝えるべきか悩んでいたが、アイシアとのベクトルが完全に違っていた。

 アイシアの中でまっさきに浮かんだのは――好きな男の事ではなく、ただ一つ……この村を守らなければいけないと言う、アイズレーンとしての意思だった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る