9-40【到着2】



◇到着2◇ 


 【豊穣の村アイズレーン】……森と山、川に囲まれた豊かな土地。

 広い土地と栄養素の高い土壌、東西南北を農業の為に開拓し、野菜の生産地として名を広め始めていた矢先……その事件は起きた。


ひどいものね……」


「これほどとは。魔物除けの防壁も焼けていますし、これでは村の中は……」


 ジルが言うように、ミオが作って村を囲うように立てた防壁すら、燃やされ壊され、跡形もなかった。

 まだ物が焼けた匂いが漂っているし、炎上は村全体に及んでいたのかもしれないわね。


「これを王国軍が?」


「……はい。【王国騎士団・セル】――でしたか。その面々と、聖女と呼ばれる……転生者。その聖女に組する兵士たち……それらがこの村に火を放ちました」


 この黒服の人は、ライネ・ゾルタールと言うらしい。

 転生者……と言う際に間が開いたのは、私とジルを警戒してなのか、それとも私がその言葉を口にしたからあえて、なのか。


「ウィズに聞いてはいたけれど、ここまでなんて」


「ウィズ……?それって、ミオくんの能力ですね」


 この人は知っているんだ。ミオが転生者で、能力【叡智えいち】ことウィズと会話が出来る事を。

 それはきっと味方で、信頼できるから教えたのだろう。


「ええ、私も聞こえるから……転生者ではないけれどね」


 敵意を見せない様にしたつもりだったけど……あれぇぇぇぇ??

 凄い、何というか……睨まれてる気がするのは気のせい?

 長い前髪の隙間からこう、ジッ――と、刺すように。


「――彼女らは味方のようね。取り越し苦労だったわ……」


 北門があった残骸の影から、女性が。

 この気配だ……さっきの引き寄せられるような感覚!


「だ――」


「……」


 私が「誰!」と言う前に、ライネさんが一礼をした。

 それだけで、このプラチナブロンドの女性が上官、目上の人だと言うのは分かる。


「そちら……帝国の貴族、それも位の高い方とお見受けするが」


 ジルが私をかばい立つようにして言う。

 警戒している……それに私でも分かるくらいには、彼女は特殊だと思った。


「そうですね……私はセリス、旅の冒険者よ。そこのライネの仲間な・か・ま……ね。服装は冒険者ならいくらでも稼げるし、身分は特に関係無いのでは?」


「確かに、それもそうだ」


 セリスという女性はライネさんをちらりと見る。

 ライネさんは口元を押さえていたが、何かをミスした感じね……仲間という言葉をを強調して言ったし、一礼した事が問題かしら。


「私たちは偶然、炎上する村に訪れることになり、村長のご子息……ミオさんからの協力要請を受けて、村の護衛を引き受けたのです」


「偶然、ね」


「そう、偶然ですよ……ぐ・う・ぜ・ん」


 自信満々に、ジルを見てそう言い放つ女性。

 ライネさんと同じ黒を基調とした服装……でも少し違い、ドレスのようにも見える。ぼ、冒険者には見えないような気もするけど、そう言うものだと言われてしまえば意味はないし。


「おっと……責任者が来たようね。スクルーズさんっ!こっちよ」


 スクルーズさん。

 ミオ……は用事でいないとウィズに聞いているから、来たのは。


 暗めの金髪を揺らして、急いで来たのだろう。

 その小さな姿の後ろには……オレンジ色の髪の女の子も一緒に、私たちを迎えに来てくれたようだった。

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