9-39【到着1】



◇到着1◇


 ようやく着いた。

 エルフの里からの道中にミオと別れて三日、私たちは予定よりも半日遅れて、【豊穣の村アイズレーン】へと到着した。

 様々な理由があるけれど、だけどあの日……力になれなかった自分を情けないと思う気持ちもあれど、ミオのかせにならずに済んだと言う一つの安堵もあった。


 三頭の馬がく馬車は、ミオが能力で強化してくれたおかげで壊れることなくここまで来られた。

 大雨や、魔物との戦い、それから……彼の事も、ミオに伝えないと。


「――お嬢様、迎えのようですよ」


「ん、そうみたい……クラウ、かしら?」


 馬車内から顔を出して外を見る。

 御車席のジルは少し声を抑えていた、だから私も少し……緊張した。


「いえ違います。あれは……」


 私にも見えた。あれは、黒い……軍服かしら。

 そんな黒服を着た、緑色の髪をした女の子が道の真ん中に立っていた。

 まるで私たちを通さないと、そう言わんばかりに。


「――停車を。そちらは?」


「わたしたちは旅の……いや、小細工は無用か」


「そうね。私たちはこの村に用があります、出来れば通していただきたいのですが……逆に、そちらは?」


「この村の警備を任されている者です。責任者がもう直ぐ着くので……どうかお待ちいただけますと」


 少女は丁寧に頭を下げる。


 うん。敵意は感じないけど……手に持つのはさやのない剣。

 抜き身の状態で警備なんてするものかしら。


(――お嬢様)


 !!……そよ風に乗って、耳にジルの声が届いた。

 魔法を使って声を届けてくれたようね。私は返せないから、黙って聞けと言う事なんだろうけど。


(この少女、強いです。それに他にも)


 それは私も気付いていた。

 魔力の反応というか、不思議な反応が三つ……でも一つだけ、感じた事のある感覚もある……冒険者学校で。

 それともう一つは……不思議な感覚。引っ張られるような、引き合うような感覚があった。


「……」


「……」


 まるで睨み合いだわ。

 動くにも、こちらは戦闘態勢ではない……一方であちらの少女は臨戦態勢。

 私たちが下手な真似をすれば、いつ斬られてもおかしくはない。


『――ミーティア』


「っ!」


 思わず声が出そうになった。

 馬車の中に戻り、小声で。


「ウィズ……どうしたの?」


『あの少女は味方です。少なくとも今は……』


 もう少し早く言って欲しかった。

 あと少しで戦いになる所だったわよ?


『申し訳ありません、現在【女神アイズレーン】が不安定なせいか、ご主人様とも意思疎通が出来にくい状況でして……』


「アイズさんが……平気なの?」


『平気とは言い切れませんが、そこにいる少女は……女神の選定による転生者です』


 つまり、ミオやクラウと同じ。

 私は戦いにならない様にと、馬車窓から顔を出して。


「――ジル!そこの彼女は味方だそうよっ!転生者だって!」


「……!!」


 緑髪の少女から、一気に重圧が襲ってくる。


「これは……」


 熱風のように、包み込むような敵意が。

 分かりやすい様にと転生者と口にしたのは軽率だったかもしれない。

 でも、ならば私にはもう返答の用意があった。


「待って下さい!私たちはこの村の敵じゃありませんっ……ミオとクラウ、そう言えば分かると思います……でしょ?」


「……なるほど」


 溢れた敵意が治まってくれた。

 よかった、とりあえずは揉める事なくて。

 私は小さく「ふう」と息を吐き、馬車から出る。


「――青髪?」


 彼女が小さく呟いたその言葉の意味を、知ることなく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る