9-38【帝国の考え3】



◇帝国の考え3◇


 近付く気配は敵か味方か。

 皇女一行は、その強力な魔力が近付くことに危機感を覚えた。


「どうしてこんな場所に、ロイドみたいなのがバンバン現れるんすかねぇ?」


 ゼクスは頬を引き攣らせて腕組みをする。

 一行は戻る事も忘れて、円陣を組んでいた。


 ロイド・セプティネ。

 【帝国精鋭部隊・カルマ】所属の魔人だ。

 ユキナリと皇女を除けば、最強の一人に数えられるだろう人物だ。


「確かにそうね……ミオに、お姉さん……あの【竜人ドラグニア】の女の子もそうだけど、不思議ね」


 言ってしまえば、皇女一行もここにいるのだが。


「強そうだな、この魔力……う~ん、それにしてもどっかで会ったかぁ??」


 似てはいるが、確定ではない。

 転生者の波動を感じ取れるユキナリでも、その魔力を特定できない。

 だからこそ警戒する……話をしなかったミオたちも悪いが。


「ドンドン迫ってない?確実にこの村が目的よ?」


「ですね。王国軍でしょうか……」


 ライネは真剣な面持おももちで【アロンダイト】を出現させて、準備をする。

 戦闘の覚悟も必要だと思っているのだ。


「軍と言うには……なんにせよ様子見ね、このまま待機」


 大きな反応は一つだけだ。

 軍と言うのならば、流石に少なすぎる……この大きな反応に飲まれてしまっている可能性も考えられるため、完全否定は出来ないが。


「「了解」」

「えー、戦おうぜー?」


「るっせボケナス!殿下の言う通りだ!」

「黙ってボケナス、無暗むやみに敵意出さない!」


「……状況と場合によっては戦いもあり得るだろうけど、まずはミオのお姉さん……スクルーズさんの動きをチェックね」


 主導権はこの村の戦力にゆだねられる。

 ミオがいない今、姉のクラウが最大戦力だ……この考えは取り越し苦労なのだが、帝国の歴史で考えるに、皇女たちも自分たちから手を出すことだけはしないのだ。

 【サディオーラス帝国】の理念として、強者である自分たちがみずから進んで国攻めをする事はない……例外は守る時だけ。

 防衛と反攻……それ以外に、【サディオーラス帝国】が戦争をする理由は無いのだ。


「いい皆、もしも迫ってきている反応が王国軍だったら……その時は帝国の脅威ちからを知らしめる時よ。この村は帝国の領土……前回何もしてあげられなかった悔いは、その時晴らすっ――いいわね!」


「「はい!!」」

「へーい」


 何事も無ければそれでよし。

 迎え撃つ覚悟は残念ながら水泡すいほうとなるが、その思いは本物だった。

 帝国領土であるこの村を守る。帝国の理念と皇女としての考え、その想いだけは誰にも変えられない。

 何十何百と続いてきた、帝国の歴史と……転生者たる心を重んじて。

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