9-37【帝国の考え2】



◇帝国の考え2◇


 魔物を一蹴した皇女一行は休憩をする。

 しかし、そろそろ帰ってもいい時間帯だ。


「なぁ、もう約束の時間は終わってるよなー?ミオっちは夕方までって言ってたぜー?」


 足をプラプラとさせて、石ころを蹴りながらユキナリが言う。

 誰もが理解出来る、退屈のアピールだ。


「ダメよ。せめて完全に太陽が沈むまでは」


「だったら姫さんたちは帰ればいいんじゃねぇの?俺だけだぜ?ミオっちに頼まれたのはさー」


 仮にも一国の姫である。

 言い方は悪いが、辺境の地で魔物番をしていい立場では無い。

 これにはゼクスもライネも同意だ。うんうんとうなずいていた。

 しかしセリスフィア皇女は、その反応を見ても。


「い、いいでしょう別に。ユキナリだって一人じゃ寂しいだろうし」


「「それだけは無いです」」


 仲間と一緒にいたいのはセリスフィア皇女の方だ。

 それを知っている二人に、遠回しに否定される。


「……酷いわね」


 言葉と共に夕日が沈み始める。

 そろそろ夜が迫っていた。


「二日ほど過ごしてみても、ここの村は夜すっごく冷えるわよね」


「ですね。もうすぐ春ですけど、日本で言う東北並ですかね。確かに寒いかも」


 肌をさすりながらライネが言う。

 それを見たセリスフィア皇女はライネにいそいそと接近し、笑顔で身体を寄せて。


「ふふっ、ならくっつきましょう?」


「え。いいです別に……は、恥ずかしいですよ」


「え……で、ではゼクス」


 ライネに拒否され、ショックを隠せない表情のセリスフィア皇女。

 しかしゼクスにも。


「――僕は全然寒くないんで」


 首をブンブンと振り回して拒否するゼクス。

 それにしても従者に軽々しい、というか生々しい要求をする皇女だ。


「じゃあ……ユ、ユキナリは?」


 少し顔を赤らめて。


「かはは、全然平気。むしろ暑いなー」


 この皇女、実は自分が寒いだけである。

 スキンシップを気にせず、男女平等に接する気軽さと、フレンドリーに積極的に動く行動力。

 更には先ほどの戦闘のように、指揮を執り部下に的確な指示を出す視野の広さ。

 その上、実力があると言うのだから底知れない。


「そう……じ、実は私も熱いのよねー」


(やせ我慢した)

(噓ついてる)


 ユキナリにまで拒否されて、しまいには涙目になりながらも威勢を張る。

 本当は寒がりであり、抱き枕を抱えて眠る女の子なのだ。


「お。夕日が沈んだなぁ……帰ろーぜ?」


「……そうね」

(寒いし……)


 ガックリとしたまま、皇女はユキナリについて行く。

 もうトボトボである。


「ん?」


「……どうしたのライネ?」


 帰る途中、ライネが不意に振り返る。

 その方角は東だ。


「いえ……少し大きな気配が。これは……」


「転生者、ではないなー。でもすげぇ力だ……あれ、でもこの波動どっかで」


 ユキナリは首を傾げて東を見る。

 魔力の反応的に、感じた事のある気配だと思ったが……強力な魔力に覚えはなかった。


 それはミーティア――【オリジン・オーブ】によって【超越ちょうえつ】にも似た強さを得て、エルフの加護……名を与えられた少女の、来訪だった。

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