9-34【夕日は沈む、気も沈む1】



◇夕日は沈む、気も沈む1◇


 俺は急ぐ。ガラガラと荷馬車をき、背にリアを乗せ。

 時刻はもう夕方……夜が近いという事は、ミーティアとジルさん、ルーファウスが村に到着するという事だ。

 率直に申し上げてしまうと――間に合わんっ!!


「くっそー……魔物どもめ、子連れ狼の気持ちがよく分かるぞ!」


 帰り道、数回魔物に邪魔された。

 急いでいるそういう時に限って大量に、厄介にもまぁあぁなレベルのだ。


「う、う~ん……ミオにいちゃん……」


「すまんリア!気持ちよく眠ってたのに!」


 背中で上下に揺さぶられているリアは、気持ち悪そうに顔をゆがめていた。

 俺が急ぐ理由は色々あるが、新鮮さが売りの魚の鮮度が落ちるという事や、肉の匂いに釣られた魔物が増えちまう事、虫が多くて食料に群がる事など、今し方買った物での悩みが多かった。


「だぁあ!よく分からんちっさい虫!!……どこにでもいるんだなマジでっ」


 自転車に乗ってたら口に入った事ないか?

 あれだよ、あれ。


「ウィズ、【紫電しでん】を使えば荷馬車はもつかっ!?」


『――もちません。荷馬車に使用された素材が最下級素材なので、【無限インフィニティ】で強化しても、耐える事は不可能でしょう』


 ご丁寧にどうも!!

 つまりはいい素材で作った馬車なら耐えられるという事だ。

 【無限むげん】で最大値まで強化しても、元の素材が弱いせいで使えないってことだな。

 RPGで序盤の武器をいくら強化しても、結局は次の段階の武器の方が強くなる的なやつだ。


「――あ、あれ?」


 ぽ。ぽ――ぽつ、ぽつ……


「雨ぇぇ!?」


 一昨日おとといに降ってくれよ……タイミング悪すぎだろ!

 雲はそう大きくはない、直ぐに止むとは思うが無理は出来ない。

 俺はリアを見ながら、強行を諦めることにした。


「雨宿りするか……【無限むげん】で」


 荷馬車ごと隠れられる大きさに地面を操作して、小さな小屋……バスの停留所のような感じの大きさに整えてそこに入る。


「リア、起きろ」


 ゆっさゆっさとしてやると、リアもようやく起きてくれた。


「うにゅ~……はふ」


 欠伸あくび小せえ。

 俺の背から降りたリアは、曇りつつある空を見ながらつぶやく。


「ねむい」


 結構寝てたけどな。

 寝る子は育つと言うが……クラウ姉さんと言うことわざクラッシャーがいるからな、信用は出来ん。


「おいで、濡れるぞ?」


「うん」


 親とはこんな気持ちなのだろうか。

 俺はリアが濡れないように自分の足の間に座らせる。

 俺にはガキの時の、こんな思い出はない……親父もおふくろも、こんな家族のような事はしてくれなかった。


 俺は自分の子供が生まれた時、親と同じことをするかもしれないと恐れた事がある。

 両親と同じことはしない、もっと素敵な人を見つける……そうやって言ってきた人ほど、同じてつを踏む。

 だから恐れた、家庭を持つ事を、人と関わる事を。

 そして今まさに、俺は異世界でそれをしているんだ、これからもしていくんだ。


 雨を見ながら、俺はリアの頭を撫でて……そんな事を考えていたんだ。

 いずれ出会うだろう、その時を恐れて。

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