9-33【未来の自分の姿】



◇未来の自分の姿◇


 大量の食料を購入し、俺はこの町……【トリラテッサ】で良い出会いを得た。


 骨董品屋である、【マッサロ】の店主。

 たぬきの獣人、ケチでがめつい、ペル・タリラーシャさん。

 でも話はしっかり聞いてくれるし、こちらが信を示せばしっかり返してくれた。

 うん、良い人だな。


 そして集合市場【オウパチ】に露店を開く夫婦。

 人間族のコラルダ・パルン大将と、奥さんのレシャさん。

 どうも大きな敷地の畑や、牧場を持っているらしいが、人手が少なく困っているとか。

 それでも俺の話を聞いて、良心的な価格で二百人分の食料を手配してくれるらしい。ありがたい事だよ。

 そしてこのパルン夫妻には種を蒔いた……【スクロッサアボカド】を食べさせて、その利点に気付いてくれたと思う。


「よっと、ほらリア……帰るぞ?」


「……うん……」


 眠そうにしながら、リアは目を擦る。

 夫妻は必死に作業をしてくれて、荷馬車の中は食料でパンパンだ。

 しかいまぁ時間はかかった……もうおやつ時だ。

 そろそろ村に帰らないと、ミーティアたちが到着するのに間に合わなくなる。


「眠いか?馬車には……乗れないな」


 荷物を整理しても流石に乗れないし、乗せたら乗せたで、多分臭い。

 魚類もあるし、干し肉や干し貝、瓶詰の漬物や鶏卵……その他諸々もろもろ、仕方ない……おぶるか。


「おいしょっ……と、軽いなぁ」


 リアを背に乗せ、荷馬車を牽く。

 まるで子連れ農夫だな、想像も出来……――いや、そう言うのもアリだったのかも知れないな。


「……能力なんて持たない転生をして、普通に女の子と出会って普通に結婚して、子供と奥さん連れて、農家か。きっとそんな未来もあったのかもな」


 だけど、チート能力をわんさか搭載されたイレギュラーな転生者、ミオ・スクルーズに普通の未来は訪れそうもない。

 俺が勝手に望んだスローライフ、異世界は中々に叶えさせてくれない。


 だけどそれに反する程の出会いもあった。

 ミーティアにジルさん、ジェイル、キルネイリアに、冒険者学校の同窓生や先輩、グレンのオッサン、それに背中のリアも、ルーファウスや帝国の面々もだ……ユキナリの奴は別としても、未来の財産と呼べる――かも知れない出会いだ。


「想像できなくなって来たな、ははっ……」


 自分がのんびりと農業をして、普通に過ごす未来とはかけ離れた展開ばかり。

 だけど、家族と言うものは……欲しいと思っている。


「でも、いずれティアと……」


 温かい家庭、家族、奥さんに子供。

 作る事が出来ればいいなと、夢見ている自分がいる。

 その時を守る……その未来を、未来の自分を夢想して、俺は戦うんだ。


「さて、帰るかっ!」


 その未来を勝ち取るために。

 【リードンセルク王国】……大元はあの不気味な王女だ、そして逃げた聖女にアレックス・ライグザール、【リューズ騎士団】とダンドルフ・クロスヴァーデン大臣。

 きっとまだ敵はいる……転生者もまだまだ出てくるだろう。

 【女神イエシアス】だって、俺を探しているんだからな……そうなれば自然に、自分が抱える転生者を使うはずだ。

 【女神エリアルレーネ】がそうしているように、【女神アイズレーン】が俺とクラウ姉さんをそうしているように。


 次に見える未来はきっと――転生者と転生者の……戦争かも知れない。

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