9-20【徹夜のスクルーズ姉弟2】



◇徹夜のスクルーズ姉弟2◇


 両膝に頭部が二つ乗っている。

 スヤスヤと眠るその二種の金髪は、眠気と疲労でどことなくくすんでいた。


「……足が」


 膝枕をする足が限界を迎えそうだった。

 爪先から感覚が消えていき、ピリピリとしびれが襲い掛かって来る。

 自分から二人の頭を乗せて枕代わりにしたゆえ、放棄する事も出来ないのだ。


「ミオもクラウさんも、二日連続でお疲れ様……本当にありがとう」


 村が焼かれて復興を目指さなければならない状況でも、村人はアイシアを含めて全員地下だ。

 何も出来ていない全員の分の礼を言うアイシア。


「クラウさんは、皇女様のお供の方を連れて作業してたんだよね……それはそれで大変そう」


 クラウの仕事は、主に帝国皇女――セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス殿下を始めとした、帝国の面々の対応……言わば接待担当だ。

 皇女様にはミオも気を配っているが、部下であるユキナリ・フドウの対応だけはクラウに任せたのだ……理由は『あの馬鹿、戦え戦えうるせぇんだもん。姉さんよろしく』、だ。


「あはは……どういう関係なのかな、あの黒い髪の人と」


 アイシアも少しだけ聞いたが、冒険者学校の同窓生らしい。

 それだけでは勿論ないのだが、詳しい話はミオはしたがらない。


「……転生者、かぁ」


 ミオを始め、現在この村には多くの転生者が集まっている。

 ミオとクラウのスクルーズ姉弟に、帝国皇女セリスフィアとその部下たち、ユキナリ、ライネ、ゼクス。

 この村にそれだけの転生者……すなわち前世の記憶を持っている人物が集まっている。それも女神を中心に。


「気にはなるけど、聞かれたくないだろうし……多分みんな同じだよね」


 スクルーズ姉弟の頭を撫でながら、母性が滲みでそうな気持ちを抑えて微笑ほほえむ。


 アイシアは、この後も自分の膝を枕にして姉弟を眠らせた……朝まで。

 アイズは戻ってくると思っていただろうが、それはそちらの都合。

 少女にとって大事なのは、今はこの二人の安らぎなのだから。





 あれ……あたし、寝てる?

 このボーっとする感覚、首がコクリと落ちてしまいそうな微睡まどろみ

 あたし、二人を膝に乗せたまま寝たのかしら。


 そうだとしたら、なんて器用なのだろう。

 そういえば今は亡きおばあちゃんが、座りながら寝ていたなぁ……そのままおでこをぶつけて、痛がってたのを思い出した。


 そんな夢と現実の間のような時間。

 暗闇の中で、朧気おぼろげに見えてくる光景。

 これは夢だと自覚できるような、そんな感覚だった。


 見えるのは街の喧騒けんそう

 長大な塔のような建造物が建ち並び、地面を走る鉄の箱。

 空を飛ぶ、巨大な鳥のような鉄塊。


 夢、もしくは果てしない程の未来か、失われた過去か。


 あれは、【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】が覚醒する時に一度見た……背の高い男の子。

 黒い髪で、少しやる気の無い感じ……でも、分かる――あれはミオなんだ。


 これはミオの前世の世界。

 その景色、その場景……かつてミオとクラウ、転生者が過ごした。

 地球という世界だ。

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