9-19【徹夜のスクルーズ姉弟1】



◇徹夜のスクルーズ姉弟1◇


 夜も深ける時間帯に、教会に音が響いた。

 扉を開き、そして閉める音だ。

 そんな音を、女神二人がにらみ合う部屋で聞いた少女……アイシアが。


「……誰か来たみたいですね、行ってみます」


 本当の事を言えば、アイズレーンとエリアルレーネの空気に耐えられずに、逃げ出す口実を探していたところだった。


「さっさと行ってきなさい」

「いってらっしゃ~い」


 キィ……と扉を開けて、アイシアは困ったような笑顔を見せて出ていく。


(はぁ……朝から晩まであの調子なんだもん。こっちの調子までおかしくなっちゃうよ、アイズさんはここに居ろとか言うし)


 その調子で二日である。

 自分にまかされた責務ではあるが、女神に挟まれれば気が滅入る、アイシアとて多少はリラックスもしたいだろう。


「……あれ?ミオ……?」


 女神の部屋は奥の小部屋であり、まさしく教会然とした聖堂も当然ある。

 アイシアがゆっくりと歩んで聖堂へ着くと、大扉を開閉した人物が……ど真ん中に倒れ込んでいた。

 アイシアの許婚いいなずけ……いや、それはもう二人にとっての間柄ではないだろう。

 もう二人は、昔からの幼馴染の少年少女だ。


「寝てる。ふふっ……相変わらず無邪気な寝顔だね、ミオ」


 しゃがみ込み、幼馴染の少年の頬をつんつんと突く。

 「ふふふ」と笑いながら、アイシアはミオの頭を自分の膝に置いた。


「頑張ってくれたんだね。ありがと」


 アイシアの予想通り、ミオは頑張っていた。

 夜中まで北方面で作業をして、王国軍の大馬車を隠し、燃やされた休憩所の様子を確認しに行き、そこで亡くなっていた人たちをとむらった。

 焼死体と言う……見るも悲しき、無念だったであろう死者たちを。


「……あたしたちはこの地下でこもりっぱなし。ミオとクラウさんばかりに事後処理をさせて、何も出来なくて……ごめんね」


 本来サラサラなミオの金髪も、どこか少しくすんで見える。

 そんな髪を撫でながら、アイシアはミオに感謝をする。


 ミオはアイシアに気付く事も無くスヤスヤ……いや、泥のように眠っている。

 ホームという安心感もあるだろうし、当たり前だが疲れている。

 この教会で、聖堂は祈りをささげる場所だ……アイズも一番気合を入れて作っただろうし、なにより不思議な安心感をアイシアも感じていた。


「起きないのかな……あはは」


 このままでは足が痺れそうだと、苦笑いをする。

 そんな時だった。教会の扉が再び開かれたのは。


 バン――ッッ!!と、ミオの時よりも大きく勢い良く、豪快。


「――!!」


 ビクッとアイシアが肩を震わせる。

 ミオも足がビクンと、夢見の悪そうに動いた。


「……」


「ク、クラウさん……」


 扉を開け放ったのはミオの姉、クラウ・スクルーズだった。

 暗い顔で影を落として、フラフラと二人のもとにやって来る。

 そして言い放つ。


「……迎えに来るって――思ってたのにぃぃ!」


 涙目だった。

 どうやらこの二人、姉弟揃って残業をし、お互い意思疎通を取っていなかったらしい。


「え……え~っと」


「……」


 フラ~……っと。

 クラウはゆらゆらと揺れて倒れる、ゆっくりと膝から折れて行き、ミオの隣に横たわった。


「ええぇ……」


 二人共に限界を迎え、寝落ちしたのだった。

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