9-12【クラウの苦悩2】



◇クラウの苦悩2◇


 ミオがその場に到着した場面は、実に面妖。

 奇妙であり馬鹿馬鹿しくなりそうな、そんな場面だった。


「――なにしてんの?」


 【転移てんい】でこの場に到着。

 ミオの緑色の目に映ったのは、男性に馬乗りになり腕組みをして、光る翼でバシバシと殴る姉の姿だった。


「ス、スクルーズくん……君のお姉ちゃんは凄いな、逆らっちゃいけねぇって思ったよ。逆鱗ってこう言う事を言うんだな……さっきまではマジで天使の笑顔だったのに」


 ミオの隣に並んで来たゼクス・ファルゼラシィ。

 引き攣りながら目を細めて、翼でべちべちと殴られる男性……ユキナリを見ていた。


「えーっと、そりゃどうも?」

(それ褒めてる??)


 余所行きの笑顔は、クラウに制限がありすぎた。


「――あ、ミオ。ごめん、作業全然進んでないわ……誰かさんたち・・のせいで」


「……誰かさんたち・・?」


 ミオはゼクスとユキナリを交互に見た。

 ゼクスはビクッ――として。


「い、いやいや……これはほら、あの馬鹿が変な事を言うからさ。僕もついムキになっちって……あ。スマン」


 クラウに睨まれ、ゼクスはシュンとして謝罪。

 ミオは理解した……このゼクス、クラウの真下で伸びているユキナリのようには、なりたくないのだと。だから謝罪だけは早い。


「まぁ、こっちは害受けて無いですし別にいいですけど、あ。ゼクスさん……セリスフィア皇女様がお呼びですよ。跳びますんで手を拝借はいしゃく


 ミオはゼクスの手を取る。

 その所作に、クラウは自分が置いて行かれる事を悟る。


「え、ちょっとミオ!私は――」


「姉さんは残業ね、作業終わってないんだろ?そこの馬鹿起こしてよろしく」


「え!!ちょ――」


 ミオはそう言って、ゼクスを連れて【転移てんい】していった。

 残されたのはクラウとユキナリだけである。


「かはは……二人きりじゃん」


「――うっさいわね。起きてるんならせめて抵抗しなさいよ、私が一方的にやってるみたいじゃない」


 伸びていたユキナリはニッと笑ってクラウを見上げた。が。


「あぎゃ!!……ふ、ふ、不意打ちは駄目だって!」


 見えない所から。

 ユキナリの足に天使の翼が触れ、精神ダメージ。


「たいして効いてないくせに。随分適当よね、フドウくんって……それとも馬鹿を演じているの?」


「ぜーんぜん。それより問答無用で男の上にまたがるおチビも大概じゃん?」


 構図だけなら確かに異様。

 金髪の少女が黒髪の男の腹の上に座っているのだから。


「変な言い方しない。これはお仕置きだから……はぁ……」


「いててててっ……だから地味に威力を強めんなって!痺れるっつの」


 痺れさせているのだ。

 先程から、ユキナリがあえて攻撃させている事を、クラウも分かっている。


「……ムカつくわね」


 無抵抗で、邪魔をした事に対する反省を示しているのか、それとも馬鹿にしているのか。なんにせよ、これっぽっちも色気のない男女のやりとりだ。

 しかしこうして、クラウの残業が決定した。

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