9-13【クラウの苦悩3】



◇クラウの苦悩3◇


 残業を素直に受けるクラウは、意識を作業員……ユキナリに向けながら共に作業をする。不本意ではあるが、仕事はしなければと割り切って。


「はい」


「あいよ」


「ん」


「よっしゃ」


 このように、会話と言う会話はない。

 ノールックで手渡された残骸を、種類別に分別してまとめる。

 多くは木材、少しの鉄筋、焼け残った家具や資材。


「ん――おお!これはっ!」


「なに?何かあった?」


 スクルーズ家は村で一番大きな家であり、屋敷とまではいかないが村長宅と言えるほどには大きかったのだが……火の回りは逆に早かった。

 ウッドハウスと言えるような、高原の別荘のような家だったのだから。


「……パンツ!!」


「バッカじゃないの」


 焼け残りなのか、多くの廃材の下から出てきたのは箪笥タンスの残骸。

 この位置は……クラウのものだ。


「……白かぁ。ってか恥ずかしくないんか?」


 赤面しながら「ちょっとやめてよね!」的な反応を期待したのか、ユキナリはクラウの態度にげんなりとしていた。肩の位置が下がっているほどに。


「人の下着持ちながら何言ってんのよ。黙って作業しなさい、燃えてるしすすだらけだし、これもゴミだからね」


「……あい」


 関心なしのクラウはユキナリから自分の下着を奪い、そのままゴミに分別。

 すすけた箪笥タンスの、残っている中身もだ。


(まったく、思春期の中学生じゃあるまいし……)


 まるで幼心(スケベ心)を持ったまま大人になったかのようなユキナリの行動に、クラウは辟易へきえきしながらも作業を続ける。

 ユキナリとゼクスが喧嘩しなくなっただけで、作業の効率は上がった。

 後はユキナリの馬鹿な行動に、自分が振り回されなければいい事だ……そう割り切って、自分の下着を手に持たれようとも平静を装った。

 当たり前だがクラウとて、下着を見られたら恥ずかしいに決まっているのだから。


「さ、早く終わらせましょう。もう夜になるわ」


「へーい」


 雑に返事をして、ユキナリも作業をする。

 そうして……作業が終わる頃には夕日も沈み、月が夜空に輝く時間になった。


「……疲れないのかおチビ?」


「疲れるわよ。フドウくんと一緒だからね」


「ひっでぇっ……かっはははは!」


 皮肉を言われて爆笑である。


「ふぅ……もういいでしょ、廃材は後でミオが片付けるらしいから」

(【無限むげん】で埋めるのかしら)


 クラウは実家の残骸を見つめる。

 この世界に生まれて、ボロ小屋のような家からこの家へと移り住んだ。

 冒険者学校へ入学してからたった一年だが、時間的には長い思い出はない。

 それでも、家は家……大切な帰るべき場所。


「もう二度と、失わない様にしないと」


 それは誓いでもあった。

 大切な人、場所、存在……失って気付く、かけがえのないもの。

 それはきっとミオも同じなはずだと、クラウは思う。

 だからこそ、今後もこの村を起点にするのだと……自分が自分である為のスポットなのだと、クラウは思うのだった。

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