9-11【クラウの苦悩1】



◇クラウの苦悩1◇


 村の南東部、村長の家があるその場所に、一人の少女と二人の男性がいた。


「だぁかぁらぁー!」


 少女の苛立ちを孕んだ一言が空に木霊こだまする。

 声を荒げる少女こと、ミオの姉クラウ。

 この金髪の少女……クラウ・スクルーズが悲鳴を上げるのには理由があった。


 嫌そうな顔で、クラウは二人の男性に目をやる。


「――黙れよボケナス……俺はクラウちゃんを手伝ってんの、お前は邪魔だって」


「ああん?勝手に出て来ていきなりだよなゼクス、おチビを手伝ってんのは俺なんだけど」


 帝国からのお客人である、二人の男性。

 ユキナリ・フドウとゼクス・ファルゼラシィ。

 ユキナリは村の防衛戦を手伝って貰った恩があり、ゼクスは皇女の命令を聞いていると言う仕事がある。

 正直言って、クラウからは断れないのだ。


 そんな二人が、どちらがクラウを手伝うかで喧嘩を始めた。

 実に、朝から数えて三回目。ため息しか出ていないのはクラウ。


「はぁ~……いい加減にしてちょうだい。作業が進まないじゃないのよ、もう……」


 頭を抱えたくなる思いだ。

 今日の予定は既に二時間遅れ、弟ミオも今ごろは皇女様を案内している頃合いだ。

 このままでは今日の作業が終わらないどころか、明日に持ち越しだ。


「いやぁ悪いねクラウちゃん。このバカは放っておいて、作業をしようか」


「おいゼクス、だから俺が――」


 ガラガラガラ……


「「「あ」」」


 ユキナリが動いた瞬間、瓦礫がれきが崩れた。

 たった今クラウが積み上げた、燃えていなかった木材が。


「……」

(笑顔……笑顔笑顔!……笑顔笑顔笑顔っ!!)


 ピクピクと頬が引き攣るクラウ。

 言い聞かせるように心で反復させて、必死に余所行きの顔を作る。


「――やべっ」


「あ、おいボケナス!?」


 クラウの顔を見て走り出したユキナリ。

 しかしその行動が、余計にクラウを苛立たせた。


 ブチッ――!


「――逃げるんじゃ……ないわよぉぉぉお!!」


 爆発した。

 あれからまだ二日、ユキナリ・フドウもまだ完全回復はしていない。

 しかしクラウは別である。【超越ちょうえつ】した事によって、他の面々よりは余力があり、有り余っていても不思議ではなかった。


「おわっ……つ、翼……!?これが天使ちゃんの力かっ!す、すんげ……」


 ゼクスは、クラウの背中に展開された四翼の翼に驚愕きょうがくする。

 それ以上に驚くのは、魔力にだろうか。


(この魔力量、一般的な天族、天上人よりも多いぞ!魔族並だっ……ロイドにだって引けを取らねぇ!や、ヤベェってこの村ぁぁぁぁ!)


 先日顔を合わせたクラウの弟、ミオ・スクルーズもヤバかったが、この小さな天使もヤバいと理解する。出会って二日で……帝国の面々からの印象は、スクルーズの姉弟はヤバい人物扱いだった。


「ぬおっ……あ!ぎゃああああああああああ!ぐふっ……」


 光がユキナリに向かって伸びた。

 その光は、まるで手のようにユキナリの足を掴み、精神ダメージを与えたのだ。


「――ふんっっ!」


 つーんと、クラウは倒れるユキナリから顔を背けた。

 自業自得だと言いたそうに。


「は、はは……」

(光の魔力を可視化して、腕のように使ったのかよ)


 乾いた笑いを浮かべるゼクス。

 【瞬光しゅんこう】と言う能力を持つ、同じ光使いとして理解出来る。

 この娘は……大化けすると。

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