9-7【燻りは残ったまま7】
◇
リディオルフの遺体を隠し……って、それだと実行犯のような言い方だが、一先ずその方法で乗り切る事にした俺が元の場所に戻ると、二人のお客様とアイシアが何やら話をしていた。
「お待たせ……って、どうしたんだアイシア?」
「あ、ミオおかえり。ほら……これ」
そう言えばさっき、何かを見つけて走って行ってたな。それか?
「――それは」
アイシアが大事そうに両手の平に乗せている物を見て、俺はハッとした。
それは種だったんだ……そう、この場所にある唯一の果実、アボカドの種だ。
「うん。残ってたの……これだけなんだけどね」
手の平に乗るのは二つの種。
焼けた中で、これだけ残っていたという事だ。
「アボカドの種ですね、懐かしい」
「そうね。これだけ炎が広がったのに、残っていたなんて……すごい生命力だわ」
ライネとセリスフィア皇女も感心そうに言う。
植物の生命力は凄い……実感だよ。
ヤバい、全滅したと思ってたから、ちょっと泣きそうだ。
「でもこれがあれば……また畑は戻る。戻せるんだ……」
さっき帝国の二人にも言った、いい関係、
それを築くための武器に、材料になるんだ。
俺はアイシアの手から一つの種を手に取り、自分の手の平に乗せ換えて能力――【
新緑の緑、優しい緑色の光が淡く輝き……種を急成長させる。
「昔はこれ一回で気絶したんだよな、懐かしいや。はははっ!」
嬉しかった。
現実を言えば、焼けた畑からはもう何も残っていないと思ってたから。
それがまさか、【スクルーズロクッサ農園】一番の売り上げを誇るアボカドが、二つだけとは言え種が残っていたなんて。
農村であるこの村に残った、希望だ。
「す……」
「これ、草の能力なのかしら?」
ライネは急成長する草木に驚き、セリスフィア皇女は観察するようにじっくりと、けれども考慮しながら「むむ」と指先を顎に当てていた。
前かがみの姿勢で俺の手を見る、そこまで興味ある?
「草って言うか、土や木もですね……【
「そうよね、凄い能力だわ……これなら意思を別のベクトルに変えれば戦闘にも使えるし、開拓者にはうってつけの能力だもの……う~ん、やっぱり【女神アイズレーン】様は多彩だって言う、歴史書通りなのかも」
アイズが多彩??
なぁウィズ、どう思う?
『ご主人様は【女神アイズレーン】の
「セリスフィア様は博識なんですね。アイズレーン様の事……直接的な転生者の俺よりも知ってるみたいで」
「だって半分とは言え、この国の女神様だもの。当然だわ」
皇女だし、勉強はしてるんだろうけどさ。
エリアルレーネはともかく、アイズの事もしっかり勉強しているんだ。
それがなんだか嬉しくもあり、少し悔しかった。
俺はアイズの事を……何も知らないんだなって、そう自覚させられて。
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