9-8【アイズの灯火1】



◇アイズの灯火ともしび1◇


 ミオとアイシアが帝国皇女を案内している頃。

 ここ……地下教会には女神が二柱ふたはしら

 神力の低い人間界では、あえて一人二人と呼ぶが、一人は警戒心をバリバリ出しながら威嚇し、一人はおっとりとした笑顔で威嚇してくる女神を見詰める。


 そんな状況が続いて、もう二日。


「さぁアイズ、【神命与奪しんめいよだつの儀】を始めましょう」


「――嫌よ」


「もぅ、またそんな事を言って……お姉ちゃんに我儘わがまま言わないのっ」


 病人よろしくベッドに腰掛けるアイズレーン。

 見舞い人よろしく椅子に座るエリアルレーネ。


 二人の関係性は、簡潔に言えば赤の他人……血筋などない関係性だ。

 しかしエリアルレーネはアイズレーンを妹と呼び、大昔から関係を築いて来ていたのだ。


我儘わがままとかじゃないでしょ。あたしに【神命与奪の儀それ】をすれば、あんたの寿命が減んのよ!?それなのにあっありと、そんな馬鹿みたいに笑顔で!」


「あら、心配ですか?」


 きらめくエメラルドグリーンの髪を撫でながら、エリアルレーネは微笑ほほえむ。

 微塵もそんな心配はしていないような、ほがらかな笑顔だった。


「……っ!」


 だから余計に腹立たしい。

 アイズに言わせれば、命の無駄遣いだ。


「ふざけないでよエリア、あたしはあんたの妹でも何でもない……ただお同じ神だってだけ、しかも造られた……出来損ないの女神じゃないっ」


 主神に創造された女神は……計五柱いる。

 豊穣神アイズレーン、蠱惑神イエシアス、救世神ウィンスタリア、運命神エリアルレーネ……そしてもう一柱、抹消された存在。


「そうね。少なくとも私たちは出来損ない……最初の一人、オウロヴェリアを除けば、四人全員不出来でまともではない神だわ」


 【女神オウロヴェリア】。

 それが抹消された、最初の一柱の名だ。


「あたしは顔も存在も知らない。二番目に造られたあんたしか、オウロヴェリアの情報は知らないんでしょ?」


 アイズレーンは最後の一柱であり、言わば末っ子だ。

 この五柱の女神は、姉妹と言われればそうなのかも知れない……しかし、その中の四柱は、もう何代も代替わりをして来た……別人たちなのだ。


「そうね……記憶が引き継がれる女神は私だけ、オウロヴェリアの事……それでも少ししかないのよ。彼女は、たった二日で主神に消されたのですから」


「……いなくなったことは知ってたけど、まさか主神に?」


「成功作であり失敗作……彼女は、主神の負の部分を色濃く継いでしまった。そう……復讐・・と言う、もっともおぞましい権能を以って」


 復讐神オウロヴェリア。

 かつて神同士の戦いで滅んでしまった神たち……残された主神は自分の権能を継がせた女神を創造した、しかし……主神と言えど、完全なる神は作り出せるものではなかった。

 完成系でありながら、いびつな心と能力を継いでしまった悪神。


 そして後期として作られたのが、神でありながら寿命を持ち、永遠という時間を生きられない神……それが代繋ぎの女神であり、今まさにその寿命の灯火ともしびを消そうとしているアイズレーンや、イエシアス、エリアルレーネだ。

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