9-6【燻りは残ったまま6】



くすぶりは残ったまま6◇


 次に向かったのは、俺の畑だ……【スクロッサアボカド】を栽培していた、今回の事件で一番燃えてしまった場所。

 【王国騎士団・セル】の騎士団長、リディオルフ・シュカオーンによって火を掛けられ、その場にいたレイン姉さんが襲われた。

 奴の狙いは初めからレイン姉さんだったらしく、アボカド畑に火を掛けたのは、多分ついでだ。


「……」


「あれ、ミオ。ちょっとあっち見て来るね」


 アイシアがそう言い、燃えたアボカドの木の方へ小走りで駆けていく。

 なんか見つけたか?燃え跡から。


「これが最近話題のアボカドだったのね……」


「食べたかったですね。帝都までは荷が来ませんでしたし」


 そもそも国内出荷は近辺にしかしてないしな。


「ウチの野菜は国外向けで、契約も専属でしてました……それが王国の商会なんで、今後は分かったもんじゃないですね」


 むしろ、【クロスヴァーデン商会】との契約は長続きしない可能性が高い。

 ミーティアがいなくなり、父親は国の大臣に成り上がった……現在の商会は、ジルさんの兄であるジェイル・グランシャリオが任されていると、クラウ姉さんが言ってた。


「そ、それじゃあ……」


 嬉しそうな顔するねぇライネ、それに声は出さないけど皇女様も。


「可能性があれば。帝国とも仲良くできれば嬉しいですよ……まずは復興してからですけどね、ははっ」


 一からやり直しだ。

 畑も野菜も、またしっかり作る……それは絶対だ。

 そして今度はもう、二度と焼かせはしない。


「ぜ、是非帝都にも野菜をっ」


「お願いしたいわね」


「あはは、良好な関係を……ん?」


 帝国ともいい関係を築ければと思ったが……視線に入ったものに注意が向いた。

 それは、少し離れた場所にある、俺とリディオルフ・シュカオーンが戦った跡……あいつを吹っ飛ばした、名残がある場所だ。


「どうしたんです?」


「すいません、ちょっと確認が――連れアイシアに残りを案内して貰ってくださいっ」


 二人の返事を聞く前に、俺は【転移てんい】で移動する。

 困った事に、あの後逃げたと思っていたリディオルフの痕跡を、見つけてしまったんだ。




 【転移てんい】で向かったのは俺とリディオルフが戦った、畑から少し離れた場所だ。

 あいつを殴り飛ばして地面に突っ込ませた場所に……骨があった。


「これはまさか……リディオルフ?」


『――魔力の残滓ざんしを検索……。……。完了しました、リディオルフ・シュカオーンに間違いありません』


「これが、リディオルフか……?」


 残っていたのは骨と皮。

 そして衣服だけ……血や肉は無くなり、干乾びた状態。


「まるでミイラだな」


 吸血鬼に魂までも吸われちまったような、無残な遺体だ。

 いったい誰が、こんな姿にさせた……いや、放置したのは。


「俺がこいつをそのままにしたからか」


『――いえ、それは……』


 分かってる。

 分かってるけど、発端を作ったのは事実。

 リディオルフ・シュカオーンが死んだ原因は、俺と戦って負けた事、俺はこいつがそのまま逃げると判断して放置した事だ。


「死因は?」


『能力と思われます……詳細は不明ですが』


「転生者だろうな、それが出来るのは」


 あの戦いの後、誰かがこの場に来てリディオルフを殺した。

 能力を使用して、ミイラのように干乾びさせたんだ。


「こいつをここに放置する訳にはいかないな、今更だけど……【無限むげん】で埋葬するか……」


 ここでは場所が悪いから、そうだな……


『――クラウお姉さまが言っていた、北門近くに作る予定の共同墓地でいかがでしょうか』


「お、そうだな」


 昨日クラウ姉さんと少し話したんだが、どうも自分が倒した……殺した王国の騎士や兵士たちの墓を作るんだそうだ。

 名前も知らない、身元も分からない正規の騎士や、徴兵ちょうへいされた王国民たちの墓を。


「とりあえずこの遺体は隠しておくとして……」


 俺は【無限むげん】で地面を操作し、リディオルフの干乾びた遺体を隠す。

 後で別の場所に埋葬してやるから……恨むなよ。

 そうして俺は二人の所に戻ることにした、そろそろアイシアも戻ってるだろうしな。

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