9-5【燻りは残ったまま5】



くすぶりは残ったまま5◇


 次の目的地は、中央部。

 井戸のある集合洗濯所だった場所だ。


 中央部には店が増え始めている矢先の出来事の火事。

 経営者にとっては悲惨だっただろうな。それこそさっき言ったディン・トルタンさんも、他の人たちもさ。


「井戸ですね、これは……深そう」


 ライネが井戸を覗きながら確認する。

 俺が【無限むげん】で掘った井戸だからね。


 井戸にも火の跡があった。

 水を汲む為の桶紐も燃え千切れ、真下に落ちているんだろうけど。

 まさかだけど、誰かが落ちてるなんてことはないだろうな。


『――反応はありません』


 ウィズが言う。

 魔力の反応が、だろう?

 普通の人だったら分からんじゃん。


「これは飲み水用?」


「いえ、洗濯用ですね。飲めなくはないですけど」


 セリスフィア皇女が関心を持ったように聞いてくる。

 ここは村の皆が使える場所だから、飲むための浄水をする魔法の道具は取り付けてない。


「各民家には浄水器と水道を通しています。ま、今は使えなくなっちゃいましたけど」


「「え!」」


 二人はおどろく。

 どこにだろう。


「か、各民家って……この村の全域に下水道?しかも水洗っ!?」


「そうです、大変でしたよ……」


 思い出して苦笑い。

 そう言えば川に流されたな……


「す、凄いですね……こんな辺境――あ、すいません!」


 ライネの失言はまぁ、正しいから別にいいんだけどさ。

 平謝りするライネに俺は笑顔を見せて許す。別に怒ってないけどな。


「これは素晴らしいわね、帝都でも下水は全域に引かれていないから……未だに貧民街とか、ザラにあるのよ?」


「へぇ」


「あー……エリアルレーネ様がよく下町の貧民街に行くので、ガラの悪い人もいるし、汚いですし……」


 経験者の言葉だな。

 それにしても女神様が直々に下町の貧民街におもむくのか、そりゃあ部下は止めるか。


「帝都って治安悪いんですか?」


 率直に思った。

 下町は何処にでもあるし、貧民街もまぁ……よく聞きはする。

 実際に目にした事はないけど……って、この村も貧困っちゃあ貧困かもしれんな、俺は感じたこと無いけど。


「そうですねぇ……貴族街はそれほどでもありません、でも」


「でも?」


「……闇ギルド【常闇の者イーガス】は帝国内にも存在していて、その首領は帝都にいるらしく、足がつかめていないんです」


 闇ギルド【常闇の者イーガス】か。

 王国の【ステラダ】でも、その組織に所属する奴を捕まえたな確か。


「どこにでもいるんだな、悪党ってのは」


「そうね」

「ですね」


 まるで自分が悪くないと、そう言っているようでおかしかったが。

 俺には俺の覚悟を決めた理由がある。

 自分が正義だなんて事は言わないけどさ、それでも……誰かのために戦えるような人間には、なりたいよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る