8-98【罪を断つ者15】



◇罪を断つ者15◇


 ウィズによって完全に修復された【カラドボルグ】と【ミストルティン】。

 俺は両手にそれを持ち、【ミストルティン】をかざして【無限むげん】を発動。

 その男、【リューズ騎士団】の騎士であったであろう怪物を拘束する。


 地面を操作して全身をからめとり、動きを封じるが。


「うおわっ……こんの、なんつー力をしてんだ!」


 魔力が物理に引っ張られた。

 俺は【ミストルティン】を持つ左手に力を込め、魔力を強める。


「はぁぁぁっ!【アロンダイト】っ!」


「うおりゃっ!!」


 拘束した男にライネとユキナリが攻撃する、が。


 ガギッ!

 ドゴッ!


「か、硬いっ!!さっきよりもっ!?」


「いってぇ!【アスラハンズ】の指が折れそうなんだが!」


 二人共、剣と拳を肌に弾かれた。

 まるではがねのような音が鳴り響き、ライネの【アロンダイト】を身体ごと吹き飛ばし。

 ユキナリの魔物の腕も、変な方向に折れ曲がっていた。


「ライネ!あぶねぇっ!」


 吹き飛ばされたライネを、俺はガッ――と支える。

 ユキナリは放置で。


「あ、ありがとうござい……ます」


「ミオっち、ライネは自分で立てるからいいって」


 そういう訳にもいかんだろ。

 転ばれて怪我でもされたら、戦力の低下だからな。


「それにしても、【無限むげん】の数値を超えて来るかよ……転生の特典ギフト製の剣まで軽く弾きやがって、どんな身体なんだっ」


 ユキナリの言葉は無視して、俺は怪物とされた騎士を見る。

 苦しそうにうめき、基本的には防御の姿勢だ。


「うう、金髪の……少年、我らの……ターゲットォォ!」


「――この木偶でくの棒がっ!いう事を聞きなさいよっ!」


 騎士の後ろに隠れているように見える聖女の両手からは、不思議な光が発光し、騎士に注がれているようだった。

 それが【奇跡きせき】か……!


 それにしても、聖女に余裕が見られなくなったな。

 俺を相手にするよりも、怪物が言う事を聞かない方が大変なのか……


 もしくは、【奇跡きせき】で言う事を聞かない奴が現れたことが、それほどまでに狼狽ろうばいする原因か。


『【奇跡ミラクル】は【女神アイズレーン】が言った通りドーピングです。本来は薬物療法にもちい、少量で回復効果を引き出すような、そんな力です』


 それを無理矢理引き出させて、【奇跡きせき】を脳神経まで届けさせれば、文字通り聖女のいう事を聞く人形となるって事か。

 細胞レベルでの能力使用、遺伝子を書き換え、分解し、再構築という結果は、まさしく【奇跡きせき】なんだろうさ。


「その人はもう、アンタの言葉を聞かないよ。聖女」


「坊やがなにをっ!アタシの【奇跡きせき】は、誰にだって効くんだからっ!!いずれあの傲慢ごうまん女王の不死の秘密を暴いて……アタシが取って代わる!」


 アンタは、女王の椅子が望みなのか。

 それだけの野心、野望を胸に持っているのに……どうして正攻法で攻略しないんだ。


「やり方を間違えたんだよ、アンタは」


 俺は歩む。

 改造されたかなしき騎士を前に、悪に染まる聖女を前に。


「うるさい!!アタシは……【奇跡きせき】ぃ!!」


「ぐぅおおおおおおおおっ!!」


 暴れる騎士は、ドンドン苦しみを膨れ上げる。

 痛みもあるのかもしれない。【奇跡きせき】による洗脳が、心身をむしばみ、自我を失わせ、痛くないと思わせているだけで、本当は心も身体も、ずっと、ずっと痛かったのかもしれない。


「もう休め、【リューズ騎士団】の騎士。俺はあんたに倒される訳にはいかない。あんたが受けた命令は、きっとミーティアと俺を探すなんだろう。この村に来たのは、確かに正解だよ……でもな、俺もミーティアも、簡単にしたがうと思ったら大間違いだ!」


 歩き近寄りながら、俺は【カラドボルグ】を上段に構える。

 そして……この能力を――【破壊はかい】を発動させる。


「行くぞウィズ」


『――了解しました』


 ただし、今度は前とは違う。

 ミーティアが傷付いて怒り狂った時とは違う……俺は、この悪の連鎖を断つために力を振るうんだ。

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