8-97【罪を断つ者14】



◇罪を断つ者14◇


 落下して来たユキナリを避けると、ユキナリはそのまま地面にダイブ。

 ドーンっ!と、分かりやすい音をさせた。


「いっでぇ……なぁミオっち、受け止めてくれてもいいんじゃねぇの?」


「誰が男を受け止めるかっ!さっさと立てっ!あの改造された人はっ!?」


 ユキナリは倒れながら指を指す。

 その方角は南、北門がある場所だ。


「お前なぁ!――って……」


 しかし……ドスン、ドスンと、その大きな足音はこちらに近付いて来て。

 やがて、俺を目視して止まった。


 しかし一番おどろいたのは……まさかの聖女だった。


「なっ!!――この役立たずめっ!!村を落とせと命令したでしょっ!!何故戻ってくるのよ使えないっ!早く行きなさいっ!!――【奇跡きせき】!!」


「ぐっ……うおぉぉぉぉっ!!」


 聖女は手をかざし魔力を注ぐ。

 そのせいか、怪物は頭を抱える。両腕とも異形の、人間ではない腕で。

 それでも、その苦しむさまは……


「おいっ!アンタ……まだ意思があるんじゃないかっ!!しっかりしろ!」


 その苦しみは、操られている事からの脱却だと思った。

 あらがっているんだ、聖女の【奇跡きせき】から。


「うう、おおおっ、金髪の……少年!!……ターゲッ……トォォォォ!!」


 ブオン――と、巨腕が振るわれた。俺に。

 巨腕は軽々と木々を薙ぎ倒し、当たればペシャンコだろうと想像できた。

 これに殴られて吹き飛ばされたのかユキナリは。


「うおっとぉ!おい、しっかりしろ……気を確かにっ!」


「無駄だってミオっち。そいつに意識はない……ただ、目標しか残ってないんだ」


 目的?……それが俺だってのかよ!

 この場では金髪の少年って、どう見ても俺じゃん!?なんでだよ!!


「ミオくんっ!そ、その人は【リューズ騎士団】の騎士ですっ……目的はっ」


 【リューズ騎士団】……そ、そうか!ミーティアか!!


「なるほどっ!なっ!っと!!」


 ブンブン振り回される腕を避けるのは簡単だ。

 見えない触手の方がやりにくいからな。


「ミーティアを狙っていたのか、アンタは……だけど悪いな、ここにはいない。もしいたとしても、俺が守って見せる。【リューズ騎士団】の騎士だったのなら、きっと……」


 俺は気付いた。

 ミーティアと俺をターゲットにする理由。

 それはきっと、三ヶ月前【ステラダ】で戦った、あの騎士たち。


「アンタ、あの騎士たちのかたきを……俺を倒すためにっ!」


「うおおおおおおっ!コーサル……ザルヴィネさん……!ヨルドォォ!」


 こんなにも意志の強い男を、聖女はがんじがらめにしたんだ。

 きっと場所が違えば、この人は英雄に成れる素質があったはず。

 こんな姿にされてまで、任務を、仲間を想う騎士……


「――ユキナリ、立て」


「へへっ、ちょっと休んでただけじゃん……げほっ、げほっ!」


 血ぃ吐いてんじゃねぇか。


「一度倒した相手なんだろ。だったら負けんなよ……意地でも勝てっ」


「言うねぇミオっち、俺……これでも数時間戦いっぱなしだぜ?全開なら負ける気もしねぇけど、こうも魔力が無いとなぁ」


 それは助かったって。

 だけど、そんな言い訳は負けてからじゃ通用しないぞ。


「ミオくんっ、ユキナリ先輩!」


 ライネも合流。

 君も怪我してるじゃないか……無理すんなよ?


「この人を救う。倒してやるんだ……俺たちで、そしてあのクソったれな聖女を……ぶっ潰す!!」


 人の命をもてあそぶ聖女……いや、魔女。

 悪い意味で歴史に名を残すような、とんでもない悪女。

 ここでピリオドを打ってやる。


 そうしなければ、この世界はこの女に壊される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る