8-96【罪を断つ者13】



◇罪を断つ者13◇


 泥臭く、地面に倒れる俺は、お世辞にも格好いいとは言えないだろうな。

 傷だらけで、切り傷に打撲……もしかしたら何か所はヒビが入ってるかも。

 何が異世界転生だ、何が“チート能力全持ち”だ。


 たったの三つ、それを持った聖女の方が使いこなしているじゃないか。

 量より質とはよく言ったものだよな、コレがいい例さ。

 だけどな……それでやすやすとやられるのは、そこ止まりの人間だ。


「ぐっ……いってぇ、マジでいてぇ。天上人も形無しだな、こりゃ」


「へぇ、坊や天上人……天族の上位種だったの。にしては歯応えないわねぇ?」


 クスクスと笑う聖女レフィル。

 そうだよ、俺もそう思う。


「かもな。でもまだ生きてる……本気出したら?」


「あらいいの?アタシは坊やでもっと遊びたいのだけれどね」


 遊んでたのかよ。

 こっちは結構真剣だったんだぜ……結構、な。


『――ご主人様。ご要望・・・の準備が完了しました』


 来た!!

 これを待ってたんだよ。

 痛めつけられても、ボロクソに言われても、折れず耐えて、耐えて耐えて耐えて!


「へへっ……それじゃあ、そろそろ本気でやり合おうぜ……ウィズ!!今まで魔力のリソースをお前に全振りしてた理由、分かってんだろうな!俺の意図を汲んでるんなら、やって見せろ!!」


『当然です。そのためにウィズも全力で実行していました。不自由もこれまでです――修復完了。【カラドボルグ】、【ミストルティン】!!』


 聖女は一歩後退る。

 何かを察したらしいな。そこは流石か。


「……なに、この感じ」


 内から溢れ出る魔力。普段の倍以上出ている気がする。

 怒りは行き過ぎると冷静にもなれる事があるが、まさしくそれかな。


「――【カラドボルグ】、【ミストルティン】」


 右手に黄金の大剣。

 左手に魔法の枝木えだぎ


 待ってたんだよ、ウィズがこの二つを修復するのを。

 俺にだってな、都合ってもんがあるんだ。

 今までむやみやたらにボコボコにされたのだって、ウィズが超高速で【カラドボルグ】と【ミストルティン】を修復する為に、俺の魔力のリソースをそちらに振ったからだ。


「二人なら負けないよなぁ、ウィズ」


『その通りです。ウィズだって能力……【叡智えいち】なのですから』


「誰と話して……!触手よっ!坊やを捕えなさいっ!!」


 聖女は指示をする。

 見えない触手はきっと俺を捕まえるためにうねうねしてんだろ気持ちの悪い。


 だけど、素直に受けてやるよ、その方が……手っ取り早いからな!


 ジュルル……ギチギチ。


 腕を、足を、首を絡めとる触手。

 男に触手プレイして楽しいか?


「へへっ……」


「何がおかしいのかしら、そのまま首をへし折っても――」


 そりゃ笑えるだろ。


「見えなくて魔力も感じない、どこにいるかも分からん触手。こっちに来てくれて助かるってもんだよ。こうやって、掴めるからなぁ!!」


 左手の【ミストルティン】を腰に差し、俺は首に巻かれる触手を掴む。

 予想に反して、ぬるぬるはしてなかったが、それならそれで掴みやすくていい。


「まさか……わざとっ!触手よ、へし折って!!」


「もうおせーんだよ。ウィズ!【紫電しでん】と【煉華れんげ】の威力全開だ!!燃やしちまえぇぇぇぇ!!」


『――了解しました!』


 超電撃と煉獄れんごくの火炎。

 どちらもたこ足を焼くには充分だろ!

 おまけで【叡智えいち】と【ミストルティン】で威力も倍々だ!!


「しょ、触手よっ……離れて……き、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 電撃は触手を伝い歩き、聖女の背中まで到達する。

 なるほど、背中から生えてんのかよ。


「あ……かっ……」


 プスプスと、髪の毛から煙を上げて膝を着く聖女。

 桃色の髪が焦げてるな、ざまぁみろ。


「たこ焼き一丁!!」


『イカ焼きの可能性も――』


 もういいから!


 ボロボロと、俺に巻きついていた触手が落ちていく。

 ついでに【カラドボルグ】で斬り刻んでおくか。


 ザン――っ!!


「これで触手は使えないだろ、痛みはあんのか?痛いか、熱いか?しびれるか?」


「あ……あぁ……うっ」


 一歩一歩聖女に近寄る。

 その痛みを、熱さを、しびれる身体を……お前は幾度となくもてあそんで、それすら感じられなくしたんだろ。

 その痛みや苦しみがあるからこそ、生きていると言う事も実感できるんだ。


「痛くていいなんて、そうは言わないよ。痛みなんて、本当はない方がいいんだ。だけど、人間はそうじゃないっ」


「ひっ……か、身体が……き、【奇跡きせき】!!」


 聖女はしびれる身体を引きずりながら、【奇跡きせき】と叫んで腕を振るう。


「お前は、まだっ!!」


 この女に、言葉は届かないのか。

 そしてその言葉に反応するように……聖女の傷が、火傷が癒えていく。


 回復だと?

 魔法じゃない……自然治癒か!?


「もういい、もういいわ坊や……考えを改めましょう、うふふっ」


「どこまでも!……アンタって人の事が、少しだけ分かった気がするよ」


 俺は【カラドボルグ】を構える。

 しかし、そんな俺の頭上に。


「――ぐあぁぁっ!」


「あ?」


 ドンッ……と、ユキナリ・フドウが落ちてきた。

 傷だらけで、大量の血を噴出させて。

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