8-94【罪を断つ者11】



◇罪を断つ者11◇


 たったの一撃でいい、一撃入れれば。

 聖女の、まるで裸も同然のようなそんな紙装甲、俺の拳で!


 【転移てんい】で聖女の背後を取り、完全に死角を付いた。

 リディオルフが使っていた戦法まんまだが、聖女は俺が【転移てんい】を使える事を知らない。

 わざわざ走ったのは、このためだ。


(行けるっ!!完全に死角、聖女も気付いてからじゃ遅い!)


 振り向いた聖女の顔面まで、残り数cmセンチ……俺の拳が入ればチェックだ。しかし……先に物理的な衝撃を感じたのは、俺の方だった。


 ドッ――!!


「……がっ!!」


 腹部に衝撃。

 物凄い勢いで聖女から引き離され、俺は何か・・に吹き飛ばされた。


 ドガァーン!と、俺は木にぶつかった。

 衝撃は木をぎ倒す程で、木片と葉、ほこりに土煙で視界が塞がれる。


「ぐはっ……!んのやろっ……何がっ」


「いいものよね転生って。ゲームでキャラクターを作るようなものでしょう?自分だけど自分じゃない、まさしくゲームじゃない。この身体は」


「――違う!!俺は俺だ……この世界で生きる、ミオ・スクルーズだ!」


 武邑たけむらみおではあるんだろう、それは認める。

 だけど、決してゲームなんかじゃない。

 痛みも感情も、全部が全部俺にはある。お前だってそうだろ!


「あら、可愛い名前だことっ……!」


 土煙で見えないが……何か来る!!


「くっ……ウィズ!」


『――判別完了。これは……能力です!転生の特典ギフトの!』


 なんで!【奇跡きせき】ってのが聖女の能力じゃないのかよ!?


「どこから……ぐっ!!いってぇ!!」


 足に激痛。何かに殴られた。

 だけど見えない、見えないって事は、透明な何かか!?


『いえ、先程の衝撃は能力――【触手テンタクル】です』


 テンタクルって……しょ、触手!?


『そして見えないのは、その名の通り能力――【透過インビジブル】でしょう』


 なんで三つも転生の特典ギフトがあるんだよ!

 あの女は俺か!!

 それともなにか、【強奪ごうだつ】のような能力が他にもあるってか!


「いってぇな!!どこから来るんだっ!」


 俺は腕で顔だけ防御しながら、ボッコボコに殴られていた。

 威力はそうでもないが、不意に来る衝撃の痛さはシャレにならん。


『この波長はいったい……』


 ウィズが戸惑とまどっている。

 それだけ、この聖女が行っている事は異常なんだ。

 俺のようなイレギュラーはともかく、本来転生者が持つ転生の特典ギフトは一つだ。

 それを三つ、この女は所持しているんだから。


「いでっ!!この触手っ!何本あるんだ!!」


 後頭部を殴られた。まるで遊ばれているようだ。


 そして、土煙がようやく晴れる。

 すげぇ長く感じたぞ、畜生ちくしょう


「あらあら、あれだけ殴ったのに血も出て無いの?随分頑丈じゃない、坊や」


「痛めつけるのがご趣味って事かな、良い趣味してるよ……聖女様が聞いてあきれる!」


 聖女はその場にいた、何もない場所に……座って。

 浮いているようにも見えるのは、きっと触手なんだろう。

 それに腰掛けて、俺をボコボコにするのを眺めていたんだ。


「でしょう?楽しいのよこれが……男も女も、気持ちよーくなれるわ」


 悪びれもせず、聖女は触手で何かをしようとしたのか……周囲の木々が、突如根っこから抜かれて浮かび上がった。

 はいはい、投げるのね、分かってますよ!!

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