8-92【罪を断つ者9】



◇罪を断つ者9◇


 聖女レフィル・ブリストラーダ。

 この女は絶対に許しちゃいけない。

 命をもてあそび、この世界に生きる全てを玩具おもちゃと扱うこの女を、絶対に許すことは出来ない!


「ユキナリ、ライネ。悪いけど、あの聖女の横の奴を頼めるか?」


「……ああ。俺もそーしないとダメって思ってたんだよ……これも運命かね」


「どういうことだ?」


 俺は横目でユキナリを確認。

 ユキナリの奴は、初めから聖女の横に控える、怪物とされた人間と戦うつもりだったようだ。何故?


「あの胸の傷……俺が付けた奴だ、数時間前にさ」


 胸の……?


 聖女の横に控える大きな体躯たいく

 その胸には、六ヶ所の傷があった。

 同時に斬り付けられたような、そんな傷だ。


「……あの時の騎士だ。ライネ」


「そうみたいね。先輩が倒したはずだけど……まさかこんなことになるなんて」


 二人共、もしかして村に来る前から戦ってたのか。

 その過程で、あの傷を持つ……元人間と戦ったという事なんだな。


「じゃあ、この異様な力は……」


「その通り。こいつは【リューズ騎士団】の騎士だ、でもって転生者だよ……だからこんなに強力に化けたんだろうな……それに剣技だけなら、俺でも勝てるか分からないくらい強かったな」


 そんな強い男が、こんな異様な姿にされたのか。

 無理矢理、意思を捻じ曲げて。


「なぁ聖女。その人は……」


「あぁ、これ?【王国騎士団・セル】の団長がお土産にくれたのよぉ」


 親指で横を差し、人とも既に見ていない。


「団長だって……?」


 アレックス・ライグザール……いや、リディオルフのやつが自分が団長だって言ってたな。

 そうか、【転移てんい】でユキナリと戦った後のこの人を、聖女に引き渡したのか。


「その団長は今頃、地面で眠ってるぜ?頭突っ込んでな」


「あっはは!あの貴族の男……大して使えないじゃない。なんだか大口ばかり叩くし、女王のお墨付きとかほざくんだもの。期待して損したわ」


 微塵も期待していたような口ぶりではないな。


「これならアレックスに【奇跡きせき】を使って、団長の椅子に座って貰っていた方がよかったかしらねぇ……?」


 アレックス・ライグザール。

 あの男……聖女についた、いや口ぶりからするに。


「アレックス・ライグザールを操ったのか、騎士団長を。自分の戦力として」


「そうね、あらそう言えば君……顔が似ているわねぇ。金髪に瞳の色も」


 そんな事はどうでもいいんだよ。

 あの人は、一応ミーティアの婚約者って形を持っていた。

 それは俺が決着を着けるつもりでいたが……


「そのアレックスさんは何処だよ。その隣の人みたいに、怪物にでもしたのか?」


「さぁ、どうかしらねぇ。うふふ……もう人じゃないかもよ?」


 どこまでも!


「――ユキナリ、ライネ。頼むぞ!?」


「分かってる、あっちもそろそろ動きそうだしな」


「ぜ、善処します」


 俺も構える。

 俺は聖女を、怪物にされた転生者はユキナリとライネがそれぞれ相手取り、戦いが始まる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る