8-88【罪を断つ者5】



◇罪を断つ者5◇


 【感知かんち】で感じた反応の正体は、人間だった。

 五つの巨大な反応。しかしその姿は……異形いぎょう


「あれを人間って呼んでいいもんかね……マジで」


 巨大化した全身に、身体の各所がバラバラに肥大化しており、左右対称に両腕がデカいモノもいれば、左右非対称のアンバランスな個体もいた。


「あれはバケモンだわ。さすがにあれと同じにされたくねぇ!」


 何があったんだよ。


「来ます!!迎撃っ!」


 ライネさんは管制してくれるらしい。

 助かるね、目になってくれるのは。


「ふっ!……らぁっ!!」


 【紫電しでん】で一瞬で跳躍し、【極光きょっこう】の光の壁を蹴って蹴撃しゅうげきする。

 稲妻を纏った【電撃デンゲキック】だ……って、名前変えようかな。


 自分のネーミングセンスに自信がなくなりつつあるが、俺は勢い良く一体にケリをかました。


 ドンッ――っと肥大化した肩に直撃する。


「ぐおぉぉう!!」


「なっ!耐えたっ……!?」


 しかも足を掴まれた。

 そのまま怪物は……俺を投げ飛ばす。


「おわっ……っとぉ!」


 【極光きょっこう】の壁を再度展開して、そこに着地。

 宙に浮いたまま額の汗をぬぐう。


「こっちに二体、ユキナリの方に二体……もう一体はどこだっ?」


 反応は五つだ。一体足りない。

 一番大きな反応が、まだこちらに来ていないんだ。


「なら早いとここのバケモン倒して、呼びだそーぜっ!おらよっ!!」


 ドグシャ――と、一体の顔面をユキナリの【グリフォンネイル】が掴んだ。

 いやグロイグロイ!!お前もにぎにぎすんなっ!中身出てるから!!


「……ミオくん左です!」


「――飛べる奴もいんのかっ!よっ!!」


 回転し右足を振り抜き、【紫電しでん】の稲妻を放射する。

 魔力の波動と共に、電撃の波が発生した。


「ぎゃああああああああああっ!!」


 甲高い悲鳴……女性だったのかよ。

 反応の中では小柄なその個体は、電撃を浴びて落下する。

 鳥獣のような羽は焦げ、プスプスと体中から煙を出していた。


「やっぱ【紫電しでん】の威力は【電極でんきょく】の非じゃないな!」


 『当然のことです』とウィズが言うが、お前魔力のリソース振っただろ。


『気のせいでは?』


「んな訳あるかよっ!!」


 明らかに、人間相手の時とは威力が違う。

 リディオルフとの戦いよりも数倍は出ているし……殺しはしないと言う、俺の意思を尊重してくれてるんだろうけど。


「まずはあの小さいのを消すっ!ウィズ、【紫電しでん】全開だっ!」


『了解しました』


 バチィ――!!バリバリバリバリバリバリ!!

 足のくるぶしから発生する電撃は、まるで翼のように放出される。


「名付けて……【雷光蹴撃刃らいこうしゅうげきは】ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 許してくれ。これが俺の精一杯のネーミングセンスなんだ。

 今後はこのセンスで行くから……いいよな。


 【紫電しでん】の加速力は、常人には見えない。

 身体はバラけそうなほどに重力を感じさせるが、【丈夫ますらお】と天上人のステータスのおかげで、きしむ程度……上位種ってのは便利だな。


 光の槍となった俺は、先程の電撃で魚のように跳ねる怪物に突撃する。

 ちらっとこちらを向いたが最後、その怪物の腹に大穴が開いた。


 ザザザァァァァ!!――バチバチィィ!


「どうだっ!」


 大穴が開いた怪物は、俺よりも遅く地面に落下する。

 ドスーンと大きな音を立てて、地面を陥没かんぼつさせた。

 バチバチと、開いた大穴から電撃がちらつく。

 火傷に感電、出血……更には、再生阻害。


「……強靭きょうじんな肉体でも、これだけのデバフくらったら動けねぇよな。あんたもきっと、あの日徴兵ちょうへいされた、王国の人間なんだろう……自由意志もないまま、こんな姿にされて、苦しいよな、悲しいよな……」


 だから俺が終わらせる。

 全員を、殺して……救う。

 聖女が招いたこの罪を、俺が断ってやるからな。

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