8-89【罪を断つ者6】



◇罪を断つ者6◇


 一体撃破。個体的には一番の小ささの奴だったが、それでも撃破は撃破、俺の勝ちだ。


「――次っ!!」


 動かなくなった、元人間であろう怪物。

 元に戻る事も、【魔力溜まりゾーン】に還る事もしない。

 これは罪だ。余りもひどい仕打ちの……大罪だ。


「ユキナリっ!てめぇもさっさと一体倒せっ!!」


「うはぁ!!手厳しいぃぃ!!だって頭潰したのに動くんだぜ!?」


 ドン!ドン!ドドン!!と、拳を振り上げては叩きつける個体に、ユキナリは防戦だった。

 自分よりも大きく、更には肥大化した腕も倍以上の大きさだ。

 受け止めるのも考えもの。避けるのが一番だと、身体で理解してるんだ。


「なら……【サイレントウイング】!」


 背中から蝙蝠こうもりのような黒い翼を展開して、ユキナリは宙へ。

 音もなく空を飛び、六本の魔物の腕で構える……月と炎上する森、村をバックに映るその姿は――まるで。


「世界征服をもくろむ魔王かよ……」


 心からそう思った。

 帝国軍人の軍服らしいその服装も、黒を基調としていて、どこか敵役っぽい。

 しかし味方であるのなら、これ程頼りになる戦力もない。馬鹿だが。


「ミオくんっ!残りが行きますよっ……わっ、こっちにも来ます!遮断しゃだんがっ!!」


 俺と戦っていたもう一体と、ユキナリと戦うもう一体がライネを向き、走り出す。

 ライネは【遮光しゃこうのカーテン】と言う技中、動けないらしい。

 なら俺が行くしかない。


「今行くっ!【転移てんい】!」


 こういう時は【紫電しでん】よりも早い。

 目測も出来ていたし、【極光きょっこう】と【紫電しでん】を二回発動するよりは節約できる。


「!!……えぇ!?」


 突如目の前に現れた俺は、ライネに背を向けて【雷光放電斉射ライトニングブラスター】を放つ。

 俺とユキナリが相手をしていた各一体ずつの怪物は、雷光を浴びて後退る。


「ぐあぁ!」

「ぎゃぁ!」


「ミ、ミオくん……すみませんっ!」


「オッケー、平気だな。このまま防壁頼むよ、ライネ!」


「……は……い!!」

(なんて信頼できるのだろう……うちのエースも見習ってほしい)


 俺はそのまま一体の魔物の足元に【紫電しでん】で移動し、アッパーカットの要領で【極光きょっこう】を纏い、その上から更に【煉華れんげ】を加えた。


「こんなのはどうだっ!!――【紅蓮極天拳ぐれんきょくてんけん】!!」


 敵との対比から考えれば、俺の挙動は完全に腹パンだが。

 ドゴス――!!とめり込む俺の右腕から、炎が産まれ……背中を貫通し、天へ駆け昇る。

 【煉華れんげ】にて、相手の体内温度を一定箇所に引き集め、解放。


「どうだ、熱いだろ!村の野菜たちも熱いってよぉ!!で、ついでにこの技の名前どう!?ライネっ」


「ええ!?い、いいんじゃないでしょうか!!格闘ゲームみたいで!」


 ふふふ、だろう。


 燃やされてしまった、俺が育てた野菜たちの恨みを受けてもらうぞ。

 そんな姿にされちまったお前たちには、まったく関係ないんだろうが、その当人だって戦いを見てるだろ、この天に昇る炎を……見ろ!!


 ぐらぁ……っと、そのまま後ろに倒れる怪物。

 身体の熱という熱を【煉華れんげ】によって奪われ、体温がなくなり動けない。

 身体の構造は、どうやらまだ人間なんだな。


「す、すごい……あっという間に、こんな強力な魔力反応を持つ奴らを。何もさせずに……これって、もしかしてロイドさんよりも……」


 ライネが感心なのか、それとも畏怖いふなのか分からない感じでおどろく。俺としてはどっちでもいいけどな、帝国の軍人さんなんだろ?

 下手に好感度を上げるつもりはないよ。


 え……?もう遅い?何言ってんだよ。

 俺には分かりませんよ?

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