8-73【王国を敵に回す一撃7】



◇王国を敵に回す一撃7◇


 時間は戻り、ギリギリでレインを助けたミオは、リディオルフに対峙たいじしてにらみ付けたが、そのリディオルフは姿を消した。

 天上人の圧力を籠めた、常人であれば気絶するであろうその覇気を受けながら、一瞬で。


「……どこ行った!ウィズ!!」


『反応なしです!魔力すら……どういうことなのっ!』


 ウィズもアイズの意思も、その事態が飲み込めなかった。

 しかし。


「――!!……そこかっ!!」


「――なっ!!くっ……」


 ブンッ!!と、ミオが後方へ足蹴りする。

 馬の後ろ蹴りのように、動作も何もなく。

 その蹴りが当たる瞬間、後方に現れたリディオルフは再度姿を消し。


「――このガキィ……僕の【転移てんい】を!!」


『【転移てんい】ですって!?――【転移てんい】に、魔力や存在力をバラバラにする力は無い筈です!』


 ウィズもアイズもおどろいている。

 しかし更におどろきなのは、初見のミオが反応した事だ。


「……こう言う悪意には慣れてるんだ。死んだ時を思い出したよ、心臓いてぇんだ、くそっ!」


(死んだ……?)


 独り言を放つように聞こえるミオの言葉に、レインも疑問を持った。

 まるで死んでいるような、そんな記憶を持っているような言い方を。


「お前ぇ……僕の力を、知っているなぁ!」


「ああ、【転移てんい】だろ?そりゃあ知ってるさ……」

(今しがた知ったけど。まぁいいだろ、ハッタリにはなる)


 事実、リディオルフは一瞬だけ躊躇ちゅうちょした。

 細工があるのか、それとも何か理由があっての事かは、定かではないが。


「……レイン姉さん」


 ミオはリディオルフの背後……燃える森を見て、レインに言う。


「は、はい!」


「さっきも言ったけど、アドルさんは無事。怪我もクラウ姉さんが治してくれたよ。だから命に別状はない……この馬鹿が、油断したのか舐めプしたのか知らねぇけどさ」


「な、なめぷ?」


「あ」


 やっちまったと、ミオは目を細める。

 興奮と臨場感で、つい口が滑った……と言うか先程から結構漏らしている。


「あ~まぁいいじゃん!それよりほら、炎が消えて来た!クラウ姉さん流石だなー、あはは!!能力あげてよかったなー!」


「え、え?」


『色々口が滑ってるわよ!』


「るせっ!もういいんだよ!……俺も俺で、決めたからな!」


 守るために。

 ミオはまた新たな決意をしていた。

 もう……自分が転生者だという事を隠すことはやめると。


「このガキィ……レインさんの弟だからって、舐めた真似をぉぉ!」


「舐めてんのはてめぇだろうが!誰の許しを得て人の姉さんの名前を口にしてんだ!その舌っ切るぞ!!」


「ぐっ……こ、この!」


 ここで初めて、リディオルフは怯んだ。

 まるで村の炎上よりも怒っているように見えて。


「リア!もういいだろ!適合はどうだ!!」


「――うん!!」


「え?リアちゃ……きゃっ!!え、ええ!?」


 急激な身体の感覚に声を上げるレイン。

 おどろくのも無理はない、隣にしゃがんでいたリアに、お姫様抱っこをされたのだから。


「リア、クラウ姉さんは分かるだろ。あっちにいるから合流してくれ!レイン姉さんを守ってな!!」


「わかったぁー!!リ・アイリス、がんばるーー!!」


 何とも言えない抜群の笑顔で、リアは答えた。


「ちょ、ちょっとま……ミオ、ミ……まっ……いやぁぁぁぁぁぁ!」


 ドドドドドドドド。


 そしてリアはレインを抱えたまま、猛スピードで走って行った。


「……な、なんか今、リアが聞き覚えのない名前言わなかったか?ウィズさん」


『安定化したオーブを所持して、記憶が戻ったのではないでしょうか』


「マジか!」


「――このクソがぁぁぁ、いつまでも僕を無視してるんじゃないぞぉぉ!」


 リディオルフがキレた。

 どうやらミオが話している間も喋っていたらしい。


「あっそ。で、いいのか?レイン姉さんを追わなくてさ……ま、させねぇけどな」


「ぬかせばいいさ……どうせお前も殺す!レインも殺す!そして死体を犯してやるんだ、そうだ……家族の目の前でなぁ!ディハハ!!」


「――てめぇ。マジで下品だよ……」


 シュ……と、ミオの姿が消えた。


「え……がっ!!」


 リディオルフの下顎に衝撃が走った。

 そして、電撃も。


「あぎゃ!!ぁぁぁぁぁぁぁげぇ!!」


 どさりと、大の字に倒れる。


『しまったミスった!』


「何がだよ。別にミスってねぇだろ」


『そうじゃありません、こっちの話ですのご主人様は戦闘に集中を……まだ立ちます!』


「!……へっ、そーみたいだな」


 ゆらりと立ち上がり、電撃による煙を放ちながら……リディオルフは立った。

 そして今ここに――転生者同士の戦いが始まる。

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